シオン。それが僕の名だ。
物語を創り、その物語を求めるたったひとりのために、物語を読むことを仕事にしている。

多くの人に読まれる作品を書くことが僕の仕事ではない。
僕は、たった一人のために、物語を書く。
その人が、最も輝いていた一瞬を切り取り、その記憶を永遠のものとするために。

誰の依頼でも受けるというわけではない。時には断ることだってある。
必ず、依頼主が喜ぶ作品を書くというわけでもない。そこに真実が無ければ、僕の筆は進まない。
それがために、命を狙われることもある。

ひとことでいうと、割に合わない仕事だ。
けれど、僕はこの仕事を愛している。
時々出会う、人生の真実に僕は自分自身の生を感じる。

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植物が新緑に染まる5月。僕はある富豪から依頼を受けた。
日本でも有数の国際企業を営む創業者一族からの依頼だ。
執事とおぼしき男性から連絡を受け、僕は指定されたホテルのBarで一族の長と会う。

「母の物語を書いて欲しいのです。」続きを読む »