歴史が僕たちに教えてくれることは本当に多い。

中国史を中心に歴史小説を書き、かの司馬遼太郎に絶賛された作家、宮城谷昌光。
彼の処女作が、今回ご紹介する「王家の風日」です。

時代は3000年前の古代中国。当時の王朝 殷(商)の滅亡を描いた作品です。殷の滅亡といえば、封神演義の物語・マンガや太公望の伝説で有名だと思いますが、宮城谷昌光はそこに歴史家の冷静な視点を加えています。そこが、面白い。

例えば、国民をないがしろにし、「酒を池に満たし、肉を木々に吊し、盛大な宴を開いた」という『酒池肉林』の伝説も、彼の視点を踏まえて考えると、祭祀国家である殷の性格を考えると一方的に悪とは言えず、当時の時代背景としてはありえることだったんだな。とか、殷が滅びたのは、悪政もさることながら、神々が治める国から、人が治める国への必然的な時代の流れだったのかな。と考えさせられます。

先日、日本でも政権交代が起こりましたが、既存の仕組みが限界を迎え、政権交代が起きた。と考えれば、3000年前も今も、為政者は(例え優秀な為政者であったとしても)常に、既存の価値観を守る側にたち、国民の声は聞こえないものなのかな。と。

さて、実は「王家の風日」にはもう一つの物語が記されている。それは、文庫版の著者あとがき。ページ数にしてわずか4ページだが、心ふるわせる著者の物語が書いてある。

小説家として立ちたいと願いながら、「王家の風日」を相手にしてくれる、出版社・編集者はいなかった。30歳を超えても、一冊の本も出せなかった著者。これほどの内容の作品であるにもかかわらず、「売れそうにない」という理由で世に出るのが10年近く遅れたのだ。

収入はなく、妻に、「借金をして、自費出版で出そうか」と相談したところ、「あおざめた顔」で頷く妻。その様子を見かねた、かつての上司が自分が出版してやる。と持ちかける。初版は僅か500部。それが限界。

そのうちの一部が司馬遼太郎の目にとまり、そこから宮城谷の作家としての道が始まる。

くだらない、中身のない本でもマーケティング次第で売れる時代だ。
売れ始めたら、権威があれば、かつて書いた本の焼き直しでも売れる。

それを否定するつもりはない。「王家の風日」や宮城谷昌光だって、司馬遼太郎という権威の目に止まらなかったら、一生日の目を見なかった可能性だってある。

ただ、彼の本が時代に埋もれず世に送り出されたこと。
それを支えた様々な人、いいものをしっかりと評価する目を持った人々がいたことに、感謝したいと思う。

(オススメ)
-- 歴史に興味があり、歴史に学ぶことができるものは多い。と感じる人に。

#宮城谷昌光の名を一躍有名にしたのは「天空の舟」です。興味のある方はこちらもどうぞ。

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