先週末は六本木農園丸の内朝大学のプロデューサー、古田秘馬さんらとともに、富山市の「まちづくり」の取り組みを視察させて頂いた。コーディネートしてくださったのは、富山市職員の中村圭勇さんだ。僕は全3日間のプログラムの半分ほどにしか参加できなかったけれど、いくつも大きな発見があり、とても素晴らしい内容だった。

その中でも特に感銘を受けたのが、富山市ファミリーパークの山本茂園長の話。

確かに「まちづくり」の話ではあったのだが、山本氏の一連の話はビジョンある経営者の話という印象を強く受け、感動した。

お話を聞く中でうけた感動をどれだけ表現できるかはわからないけれど、忘れないうちに記録に残しておこうと思う。

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山本園長は、昭和58年からファミリーパークで働き始める。平成17年にファミリーパークの園長になった。この時に打ち出した経営方針が日本の動物を中心とした飼育や展示を進める。というものだった。

今ではもう、自然保護の観点から野生動物の輸入を軽々しく行うことは出来ないが、かつてはゴリラなど絶滅が叫ばれる希少動物の輸入も3000万円払えば出来たということだ。

しかし、山本園長は働き始めた頃から、珍しい動物をお金を払って手に入れることに反対の立場をとっていた。それには2つほど理由がある。

  1. ひとつは経営の視点だ。ファミリーパークの年間の運営費は4億5000万円。確かに珍しい動物を輸入すれば来場者数は増加するかもしれないが、動物の数や種類で、競っても他の大動物園に勝てるはずもない。
  2. もうひとつは種の保存という視点だ。動物は繁殖のことを考え、通常つがいで輸入する。しかし、オスとメスが入れば子どもが生まれるというのは 人間の発想だ。と山本園長は述べる。人間だったら男と女が入れば子供も生まれるかもしれない。しかし、ゾウなどはメスが中心となって群れをつくる。群れで 子育てをする。群れが作れなければ子供も生まれない。日本の動物園の繁殖技術は世界一だが、それでも子供を産み、育てるのは大変難しいということだ。(輸入が制限される現在の環境下では今後10数年の間に、日本の動物園の多くから目玉となっていた動物がいなくなる、とのことだ。)

こういったことを考え、山本園長は日本在来の動物の展示や飼育、保護をファミリーパークの事業方針にしたのだ。

富山市ファミリーパークの動物たちは確かに地味だ。さるやカモシカ、むささび、ヤギ、日本馬など、本当に野山にいそうな動物たちが飼育されている。トラと並んで写真を撮ることができるが、残念ながらそのトラは絵のトラだ‥。

しかし、ファミリーパークは驚くほど流行っているし、地元に密着している。
休日には広い駐車場が車で満杯になるほどだ。

それは、飼育している姿を見せたり、子供向けに乗馬体験を行ったり、農耕馬を使った農業体験など、長い間、人と動物がともに歩んできた姿を体験させることにフォーカスしているからだ。

僕は小さい頃一度だけ、富山市ファミリーパークにいったことがあり、その地味さになんとも切ない気分になったことがあるので、何故こうもファミリーパークに人が訪れるのか、正直理解出来ていなかったけれど、山本園長の話を聞くにつれ、すとんと腹落ちした。

答えは富山市ファミリーパークは、動物園ではなく、地域住民の体験学習の場、と事業ドメインをすっかり変えていたことにあったのだ。

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山本園長の動きはこれにとどまらない。富山市ファミリーパークで開催される様々な企画は市民の手によって企画され、運営されている。これは全て山本園長が、地域の住民にファミリーパークの役割を語りかけ、先頭にたってイベントを企画し、運営してきたからだ。

ファミリーパーク内で行われる祭(現在は市民の手で運営されている)の第一回目を数年前に行ったとき、園長自らが近隣の企業をまわり、1週間で70社から1,000万円の協賛金を獲得したという話だ。地域の宝であり、体験学習の場である里山を守る(ファミリーパークは自然の里山の中にある)というコンセプトが、地元企業の深い共感を得られたからだ。

トップが本気だから、その姿勢が市民にも伝わるのだろう。

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差別化を推進し、
時代の流れを読み、
地域に根ざした身の丈にあった経営をし、
自然環境と種の保存に貢献するという長期視点を持ち、
自ら先頭にたって、周囲の心を動かしていく

その姿勢からは、「まちづくり」に携わる人ばかりではなく、多くの経営者が学ぶことがある。
言葉で書くことは簡単だけれど、リーダーシップを発揮して実際にひとつひとつ形にしていくことは驚くほど難しく、そして価値のあることだ。


※もちろん、課題がないわけではない。ファミリーパークの運営は100%市の委託を受けて行っているもので、4億5000万円の運営費は市から出ている。来場者収入は年間7,000万円だ(これは全て市に納めている)。もちろんこれは、市営ということで、住民の利便性を高める(入場料は500円で、半年間は無料利用できる期間がある。) ことを目的としているからということもあるが、今後のことを考えると、経済的に循環する仕組みを強化していく必要はあると思われる。しかし、それもきっと今の路線の延長線上にあるに違いない。

※山本園長は今年の6月1日から、日本動物園水族館協会の会長になった。昭和40年に同協会が発足して以来、上野動物園の園長以外の選出は異例(二人目)だそうだ。ちいさな地方都市の動物園のあるべき姿を提示し、訴え続けてきた結果かもしれない。