1週間の出張が終わり、ようやく富山に戻ってきた。
苔と油とカードゲームを行商して、全国を行脚した訳だけれど、何件かまとまった商談もあり、とても有意義な1週間だった。

最終日は京都。
正午に近い時刻、照りつける太陽が山に囲まれた京都の地を灼きつけ、気温は37度。今年一番の猛暑らしい。
僕は京都駅の改札を出て、目当ての友人を探す。

彼はすぐに見つかり、手をあげて僕に合図をおくる。
Tシャツにハーフパンツ。商談をするにはふさわしくない格好で、日焼けした彼はまるで「これからサーフィンに行くんだぜ。」と主張しているかのようだ。

「変わらないね。」
と、お決まりの台詞を互いに述べ合い、僕たちは歩き出す。

「とりあえず、ビールを飲もう。」
「いいね。」


僕が述べ、彼が答える。
並んで少しだけ歩き、駅近くの適当な喫茶店に入る。

「午後は仕事は大丈夫?」
「あることはあるけど、いま外部に発注している商品が出来るまでは、オフィスでサイトを更新するだけだから。」


ビールが届き、再会を祝して軽く乾杯する。
それにしても、彼は自分のサイトなんて持っていただろうか?
不思議に思い、僕は聞く。

「ブログとか書いてたっけ?僕、全然知らなかったんだけど。」
「いや、ブログは書いてない。持ってるのはアフィリエイト用のサイト。今は90サイトほど運用してる。定期的に新しいサイトを作らないといけないから。」

90!

僕は軽く驚きの声をあげる。多くのサイトを運営し、アフィリエイトで稼いでいる人の存在は知っていたものの、身近にそういう人がいるとやはり新鮮に感じる。これは詳しく聞かねばなるまい。

「それでいくらぐらい儲かるの?」
「一時期は月に40~50万ぐらい稼いでたんだけどね。しばらく前にGoogleの検索のアルゴリズムが変わってね。今は20万弱かな。やっぱり fukuiみたいに自分の商品を持たないとダメだと思うね。」

「あぁ、それで今、自分で商材をつくるべく、外部の会社にシステム開発を依頼しているわけか。それにしても、月に40~50万ってスゴイね。やっぱり毎日更新とかしているの?」
「いや一度サイトをつくったら、更新はしない。そこまで管理出来ないから、作りっぱなし。」

「どんなコンテンツを載せてるの?」
「う~ん。まぁ、いろいろだけど自分で事業やってるからやっぱり会計とか法務とか、自分で疑問に思ったことや知りたいことを本やネットで調べてサイトにまとめて載せてるかな。まぁ、勉強にもなっていいよ。」

僕もブログを書いているけれど、確かに稼ぐだけだったら、ブログで何十万PVも稼いでアフィリエイトに繋げるよりも効率はいいに違いない。

  1. コンテンツごとにテーマを絞ってサイトを作ることが出来る。
  2. テーマにあったドメインにすることが可能。
  3. サイト毎に相互にリンクを貼りあうことが出来る。

まぁ、そんな感じでSEO的には有利だし、テーマを絞っているので、本や商品の購買に繋がりやすい。
1日のアクセス数が500程度だったとしても、90のサイトを合わせると、5万アクセス近くなる。これでテーマが絞られていて、購買に繋がりやすければ、確かに40~50万の売上を出すことも可能だろう。

実際にやっている人の話を聞くと、説得力が違う。
Googleの検索アルゴリズムに収入が左右されてしまうという欠点はあるけれど、僕はすっかり感心した。
月に20万程度を運用しているアフィリエイトサイトで稼ぎ、今は自分で商品を開発し、新しいビジネスをはじめようとしている。収入の柱が複数あり、生活のコストが低ければいろいろチャレンジできることは多い。それは素晴らしい人生じゃないだろうか。

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彼は、5年前に勤めていたコンサルティング会社を辞め、独立した。
その時、僕は既に会社を辞めていたので、彼が何故辞めたのか詳しくは知らなかったのだけれど、専門としていた分野で、とあるビジネスチャンスを見つけたので思い切って起業したそうだ。

「いけるはず!」と思って始めたビジネスだったらしいが、まったく仕事にならないまま1年間が無為に過ぎる。

さすがに生活費も底をつきはじめ、とりあえずの収入を得るために、アフィリエイトで食おうと考える。自己流でサイトを立ち上げてみるものの、最初の3ヶ月間はアクセスも来なければお金にもならなかったという。

その後彼は、アフィリエイトに詳しい人をネット上で見つけ、彼は指導を仰ぐことにする。
サイトの大改造を行ったものの、それからさらに3ヶ月間、収入はほぼゼロ。
4ヶ月目に転機が訪れ、5万円ほどの売上に繋がる。相当嬉しかったそうだ。

そこからはとんとん拍子で売上が上がり始め、最終的には50万ぐらいの収入になる。
しかし、そこでGoogleの検索アルゴリズムの変更。
さすがに心が折れ、もう一度就職することにしたそうだ。

リクルート系の会社に就職し、2年ほど仕事を続ける。
もともと適性があったのか、彼は活躍し、収入も安定する。(ついでに結婚もした。)
仕事に不満があったわけではない、とのことだが、しかし、彼はもう一度、起業することにし、会社を辞める。

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彼の生き方は賢く、計算されたものとは言えないかもしれないけれど、僕は素直に素敵だな。と感じた。
僕も彼も、安定した職があるわけではない。だから、

「20年後はお互い生活出来ているのか、不安だね。」

そういって笑いながら別れたわけだけれど、環境が変わってもまぁなんだかお互い楽しくやってるんじゃないかと思う。

いろいろな働き方があるもんだな。
そんなことを考えながら、僕は帰路につく。