銀座に立ち寄る用事があったので、半年ほど前によく話題に上っていたアバクロに寄ってみた。

陳列されている商品自体はいいものだと思うけれど、銀座店には、あまり良いイメージを持たなかった。
何が商品の「主」で何が「従」なのか、しっかりと意識されていない印象を受けたのだ。
もしかしたら、これまでアバクロのファンだった人も少し残念に思うんじゃないだろうか。

僕が少し気になった点を下記にリストアップする。


1)店舗内の強烈な香水の匂い

香水の匂いが苦手な人には辛い。好きな人は大丈夫だと思うので、単にターゲット外の顧客を立ち寄らせないようにしているだけかもしれないけれど。もう少し抑えめにしたほうが、より多くの人に好感を持ってもらえるのではないだろうか。ムード・雰囲気づくりには必要なことかもしれないけれど。

2)入り口での記念撮影

店舗が入っているビルの敷地は狭い。だから店舗内の顧客の導線を工夫しなければいけないのだけど、入り口でスタッフが誘導して記念撮影とかされると歩きにくくて困る。

3)暗い照明

照明が暗いので、商品を良く吟味することが出来ない。リアル店舗の強みである商品の吟味がしっかり出来ないのは、問題だと思う。

4)2階で何故か踊っているダンサー

なぜか、2階で男女のダンサーが音楽に合わせて踊っていた(多分店舗スタッフだけど)。凄く場違いで、笑ってしまった。別にこれだけだったら許せもするのだけど、多分こういう余計な演出をするためのコストが価格に反映されていると思うと、笑えなかった。

5)高い価格

本国に比べ数割高い値段で商品が売られていて、ネットでの購入も円表示に統一され、出来なくなった。関税や輸送費を考えるとそれも致し方ない。という判断をしたくなるが、これまで見てきた演出にかけているコスト分が上乗せされているのかなー、と考えるとイマイチ納得できなかった。

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今日は三連休の中日だったので、普段はやっていないようなサービスをやっていたのだろう。ダンサーは今日だけかもしれないし、撮影だって平日の客入りであれば問題はないはずだ。

ただ、アバクロのやり方を見ていて、僕は2000年前後に飲食店で流行した「フーディング」という考え方と似たものを感じた。
フーディングとはフードとフィーリングを組み合わせた造語で、食事だけではなく食事を提供する空間も重要だ、という考え方だ。この考え方自体は悪いものではない。食事には雰囲気がとても重要だ。

しかし、このフィーディングの考え方を表面的にのみ取り入れた一部の経営者は、こぞって外装・内装・什器にお金をかけた。人件費や食材は継続して発生する、飲食店にとってもっとも高くつくコストだ(FoodとLaborの頭文字をとってFLコストという)。

ここにお金をかけるよりも、外装・内装・什器にお金をかけたほうが出費は一時的ですむ。外装・内装で付加価値をつけているのだから、FLコストは引き下げてもいいのではないか。価格は通常よりも高く設定していいのではないか。そう考える経営者が現れた。

そうして作られた店は、雰囲気は確かにある。面白い。
ただ、そういったものはすぐに真似されるし、飽きられるのも早い。

結果として、勝負は料理とそれに対するコストパフォーマンスに落ち着くわけだけれど、そこに手をかけてこなかったフーディング店舗からは「見る目のある顧客」が次々と去っていく結果となった。業態のライフサイクルが非常に短くなった。

僕は、銀座アバクロ店も誤った形で「フーディング」を導入してしまったのではないかと思う。
飲食店にとっては、料理が商品の「主」であり、雰囲気は「従」の要素だ。
同時にアパレルショップにとっては、衣服そのものが商品の「主」であり、雰囲気は「従」にすぎない。

しばらくは売れ行きも好調だろう。しかし、その後は経営に苦しむのではないだろうか。

「主」の商品に関して費用対効果を落とし、「従」の強化に走ったのは、自らのライフサイクルを縮める結果につながるのではないだろうか。これまでファンだった人はがっかりしただろうし、新しくファンになる人は、顧客でいる時間は短いだろう。

心配せずとも、売れ行きが落ち始めたら、店をたたむか、本来のあり方に戻すかどちらかなので、これまでのアバクロのファンはじっくり時間をかけて待つのが吉なのだろう。