最近聞いた面白い話に、モーツァルトは短命だったのか。という話がある。

天才作曲家モーツァルトは5歳で最初の作曲を行い、35歳で死を迎えるまで700以上もの曲を書いている。35歳で死んでいるので、確かに十分生きた。とは言い難いのではないかと思う(※)。

しかし、
「Sカーブ」が不確実性を克服するという書籍を著したセオドア・モディスは、作曲家としてのモーツァルトは生ききった。と述べている。

どういうことかというと、導入期-成長期-成熟期-衰退期という4つの分類にわけて事業や市場の成長をとらえるSカーブ(もともとはプロダクトライフサイクル理論)の概念に基づき、モーツァルトの年齢と作曲数をプロットすると、綺麗に正規分布の形でカーブが描かれ、その正規分布の形で予測される「一生の作曲数の91%を生み出した」時点でモーツァルトは死んでいるそうなのだ。

このデータをもってセオドア・モディスは、「モーツァルトは、作曲者としては十分生きた。」と述べているわけだが、ロマンチックな表現をする物理学者もいたものだと思う。

scurve


----

経営者の中には、パレートの法則やSカーブといった経験則を経営の指標にしている人が多い。累積生産量が2倍になるごとにコストが一定の割合で減少するという経験効果や、ムーアの法則も観察を通じて得られた経験則の一種といえる。

これらの経験則に経営者が活用する理由は、

「未来を予測し、事業に活かしたいから」


となるだろう。極端な話になってしまうが、未来に飛んでヒット商品を見て(当たりくじを見て)、現代でそのヒット商品をいち早く作り出せば(当たりくじを買えば)、事業の成功確率は高まる。現実には未来に飛ぶということは出来ないから、限られたツールを利用するしかないわけだが、それらのツールは

「構造が完全に理解できるわけではないが、使える。」

という類のものだ。

未来に対する洞察に長けた故P.F.ドラッカーも若年人口の比率から、その国の産業を予測したというが、人口動態の変化はドラッカーにとって最も確実な未来予測のツールだったのだろう。(これは経験則ではなく、より確実な未来予測だ。)

----

話をモーツァルトとSカーブに戻すが、このエピソードからはいくつかの教訓が得られる。

・寿命が短くとも、成果をもって「よく生きる」ことは可能であるということ
・ひとつの役割が終りを告げるときは、新たな種を撒く時期であること
・長くつらい種を撒く時期は、長い実りの準備の期間であること


全て気休めに過ぎないかもしれないが、時にはその気休めが力をくれることもある。



※本題とはまったく関係ないが、当時は乳幼児の死亡率が非常に高かったので、平均寿命から見るとモーツァルトも決して若くして死んだとは言えない。でも、そういう解釈はいまいちロマンに欠ける。


「Sカーブ」が不確実性を克服する―物理学で解く2000年の経営
著者:セオドア モディス
販売元:東急エージェンシー出版部
発売日:2000-05
おすすめ度:3.0
クチコミを見る