今日のクローズアップ現代は、LED照明の話だった。

通常の電球や蛍光灯に比べ価格こそ遥かに高いものの、消費電力を大幅に抑えることが出来、10倍の寿命を持つことから、LED照明への変更が次々と進んでいるという。テレビが数年の間に液晶テレビに変わったように、照明も数年の間に全て切り替わることだろう。

そのLED照明市場は2兆円。技術で先行(※)した日本企業だが、現在は国を挙げて生産に取り組んでいる中国や韓国の企業に大きくシェアを奪われている。

製造業における日本企業の強さを信じて疑わない僕ではあるけれど、番組で紹介されているように、

技術で先行しても、生産・流通で水を開けられる事業構造

に陥っている部分は少なからずあるように感じた。

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番組にゲストで出ていたのは、東京大学特任教授の小川紘一氏。番組内で紹介されていたグラフが興味深かったので、紹介したい。

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エレクトロニクス分野の製品に関しては、当初技術で先行していたとしても、短期間で国内企業の世界シェアが急速に奪われることを示している。

正確には、日本企業が技術や品質にこだわる小さな市場の維持に懸命になっている間に、海外企業がメインの市場をコスト・リーダーシップ戦略で一気に抑えてしまうのだろう。


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小川教授は、製造業の中でもエレクトロニクス産業だけ異常に研究開発費に対する営業利益が薄いと述べ、その原因をオープン環境の国際分業が加速している点に求めている。

エレクトロニクス産業は、日本企業の強みである擦り合わせ型のモノづくりが通用しない(顧客ニーズを満たさない)分野にいち早くなったが故に、国と企業が一体となり、コストリーダーシップを実現するサムスンやLG電子、中国メーカーにシェアを奪われていくのだろう。

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資料:経済産業省 日本の産業を巡る現状と課題

日本は同一産業内に複数のプレイヤーが存在する。それは強みにもなるだろうが、巨大市場に成長する分野に限って言えば、国の主導で合併・統合を繰り返して巨大化した韓国のメーカーや、巨大な国内市場を抱える中国に遅れをとる一因ともなるだろう。

擦り合わせ型が機能しなくなった分野に関して言えば、外部に出せる分野は外部に任せ、基幹技術に関しては自社で保有するクローズ/オープン戦略が対抗手段と言われているが、データを見る限りでは十分機能しているとはいい難いようだ。


まさにこれは、日本が直面している構造的な問題と言える。

コスト競争では勝てない。だから技術を追求するのだが、技術が長期間に渡って有効に機能する時代は終わってしまったかに見える。そうこうしているうちに、日本の製造業を支えてきた優秀な人材も海外企業に取られていく可能性が高い。ニッチに絞って戦うには企業規模が大きくなりすぎている。

それでも日本の製造業は短時間のうちに対応を終え、不死鳥のごとく復活を遂げるのだろうが、暫くは不利な環境での戦いを余儀なくされることだろう。

これからの推移を見守りたい。


※番組ではLEDは日本が生んだ技術と紹介されていたが、発光ダイオード自体はイリノイ大学で1962年に開発された。中村修二氏が日亜化学工業で開発したのは、青色発光ダイオードであり、これがLED照明を実現するのに必要不可欠な技術だったようだ。


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