最近、急にチェスにハマりだした。なんとなく駒の動かし方は知っていたものの、

「とった駒が使えないから将棋よりも面白味に欠ける」

とか

「人間のチャンピオンもいまやコンピューターに負ける時代だぜ」

とか、勝手に思い込んで20年以上もの間、駒すら触らなかった。
そんな僕が、すっかりハマってしまった。

何故、今更チェスにハマってしまったのか。それは、僕をチェスに誘った友人を、素人の僕が2連続で叩きのめしたから。とか、そんな理由ではけしてない。僕はそんなケツの穴の小さな男ではない。

でも、大事なことなので、もう一度言う。僕は、素人でありながら、自信たっぷりに僕をチェスに誘う友人を2タテしたのである!

さて、前置きが長くなってしまったけれど、僕が感じたチェスの魅力を(素人目線で)語りたいと思う。
チェス、それは古代の戦場の息吹が聞こえてくるゲーム

そして、チェスに強くなることは人生、そしてビジネスという現実のゲームを強く生きるためにもきっと役立つことだろう。

■古代の戦場の息吹が聞こえる「チェス」

チェスと将棋の違いは何だろう。将棋が9×9マスであるのに対して、チェスは8×8マスだ。しかし、それ以外にも、古代の戦場を活き活きと表現する2つの特徴がある。

  1. 相手の駒をとっても利用できない
  2. 考え抜かれた駒の動き
ちょっと詳しく見ていきたい。


相手の駒をとっても利用できない

チェスは、将棋と違って相手の駒をとっても利用することができない。これはチェスの戦略の幅を狭くしている一因ではある。しかし、実際に古代の戦場に身を置いているとしたらどうだろう。倒した敵を、味方の予備兵力として戦場の好きな場所に投入できるだろうか。そんなことは無いだろう。相手の駒を利用できないのは、盤上で行う模擬戦闘と考えると、妥当なことなのだ。

これは同時に、駒を失うことが大きな戦力低下をもたらすことも意味する。将棋以上に保有する駒の数が勝敗に影響をもたらすため、駒の戦力を数値化して表したり(ポーンが1点、ナイト・ビショップが3点、ルークが5点、クイーンが9点)、簡易的に有利/不利を把握するのに利用したりする。

敵より多くの戦力を揃えることが、戦いに勝つための第一条件だった古代の戦いを考えると、戦力差が大きな影響を与えるチェスはリアルな戦場を模したものと言える。


考え抜かれた駒の動き

チェスの駒の動きを知ったとき、僕は心が震えた。盤上に陣を展開する我が軍の兵士、将帥一人一人の僕への声なき訴えが聞こえてきたほどだ。(ハチワンダイバーの文字山ジローの気持ちが初めてわかった)

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↑文字山ジロー。駒の声が聞ける。なるぞう君は「歩」のこと


特に面白いと感じたのは、ポーン(兵士)の動きだ。ポーンは下図のように前に一歩だけ進める。
これだけだと、なんら将棋の「歩」と変わらないが、最初だけ二歩動くことが出来る。そして、相手の駒が斜め前にある時は、これをとることが出来るのだ。ただし、正面の駒はとることが出来ない。

図2

これは、僕が10歳ぐらいの時にチェスに初めて触れたときに、チェスを面白いと感じず放り出してしまった一つの特徴だ。何で前に進めるのに前の駒は取れないの!!と。その理不尽なルールに憤慨したものだ。

しかし、様々な知識を得た今だったら別の見方をすることが出来る。これは非常に納得感のある兵士の動きなのだ。

それは決して、最初は元気だから2歩進めるんだよー。というだけでなく、

古代の戦争において、歩兵と歩兵の正面からの衝突というのは膠着状態になりがちで、それを忠実に再現しているからだ。なぜなら、相互にしっかりと防御を固めているわけですから、正面からの戦いではお互いに損害を与えられないのだ。

この膠着状態を打破するのが、別の隊から相手の防御が薄い横腹に槍を突き刺す「横槍」だ。このポーンの動きはそういう当時の兵士の基本的な動きを忠実に再現しているわけで、なんとも奥が深い。

将棋の場合は、前に一歩しか進めない歩だけで、防衛ラインをつくることはなかなか難しいのだが、ポーンの場合は斜め前の駒に影響を与えることが出来る。巧みに配置すれば、ポーンだけで効果的な防衛ラインを構成することも可能になる。

ちなみに、ポーンは最終ラインに到達すると、好きなコマに身を変えることが出来る。(=プロモーション)大体は前後斜めにいくらでも進むことが出来るクイーンになるのだが、過酷な戦いを乗り越えた一歩兵隊から、英雄が生まれる瞬間のように見え、これは大変にドラマチックな瞬間だ。アムロ・レイがいた第13独立部隊みたいじゃあないですか。ゲームの終盤では、このプロモーションを終えた兵が勝敗の鍵を握ることも、ままある。


機動力ある将帥コマの動き

ポーンの特徴的な動きに比べると、将帥コマ(ルーク、ナイト、ビショップ、クイーン)の動きは、非常に機動力がある。きっと、騎馬で編成され、独自に命令を解釈できる正規軍に違いない。

正規軍が機動力を持つことで、戦術の基本である、戦力を集中し、敵を分断し、各個撃破する。動きが大変取りやすくなっている。

主たる戦線に、複数のコマが影響できる配置をし、一気に押し通る。そういう数に任せた戦術を取ることも出来るし、わずかに生まれたルートを利用して、桶狭間ばりの奇襲攻撃を出し、チェックメイトに持ち込むことも可能だ。

この、「助け合い、ラインをつくる兵士」と、「機動力をもって局面を動かす正規軍」の組み合わせが大変いい味を出している。

戦略・戦術に長け、盤上の局面から数手先を読むことが出来る優秀な指揮官は、このように既存の戦力を効果的に扱って、戦っていたのでしょう。戦上手はきっとチェスも上手かったはず。チェスは軍議での戦術指南から生まれた遊びだったのだろう。

※上杉謙信は野戦で神がかった強さを見せたと言います。信玄との戦いでは寡兵で互角の戦いを繰り広げ、もっとも得意とした陣形は車懸りの陣だっ たと言います。実際には、車懸りの陣などなく、疲れた兵をタイミングよく後ろに下げ、元気な兵を効果的に前線に送り出すことで、実態以上に士気を高 く保ち、兵を多く見せたということのようですが、これは用兵が本当に上手かったからこそ出来たことでしょう。


下の図は、ポーンが前線を押上げ防衛ラインをつくり、ビショップの通り道を開けた例。古代の戦いを勝手に妄想して手を勧めてます。

図4


■チェスは自らを写す鏡

他にも語りだすとキリがなさそうなので、これぐらいにしておく。
ひとつだけ最後に述べるとすると、チェスは自分自身の性格を映し出す鏡だということだ。例えば、

  • 形勢が不利になると勝負を投げ出したくなったり、
  • 決定的な手が見つかると、視野が狭くなって大事なことを見落としたり、
  • 一つの戦線にこだわるあまり、他の手を考える余裕を失ったり‥

そういった自分の精神的な弱さがもろに感じられるゲームだということだ。

時間が出来たときには、一人静かにチェスに取り組み、自分自身の精神の特徴をつかみ、鍛える訓練をしてみるのもいいんじゃないだろうか。ロジカルシンキングや戦略思考に慣れたビジネスパースンであれば、初めて取り組むときでも、結構いい成績を残せるに違いない。

僕みたいにクイーンの死に涙するタイプの人間は、勝負に勝てるようになるのは随分あとになりそうですが。


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