孫正義さんと、佐々木俊尚さんの「光の道」対談を見た。本当に面白かった。
両者のプレゼンも素晴らしかったし、何より広いターゲットに対してわかりやすく論を展開されていた。


文字おこしは誰か優しい人にお願いするとして、孫さんの世界最高レベルのプレゼンで参考にしたい点を忘れないうちにまとめておきたいと思う。


1)一番関心のあるトピックで、視聴者を一気に引き込む。

「光の道」反対論者の根拠の一つである、離島に光回線を引くコストを最初の論点に持ってくることで、一気に視聴者を惹きつけた。また、コストの話は客観的に、誰でも評価できる分かりやすいトピック。トピック選択としても秀逸だった。

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2)ファクト、数字をもとに話す

何故、メタル回線を全て光に置き換えた方が安くつくのか、数字をもとに大変わかり易く説明されていた。現在のメタル回線と光回線が同時並行で、整備されメンテナンスされているが故にコストが二重にかかっている点がよく理解出来た。

参考としたデータは、ソフトバンクが独自に調査したものではなく、NTTが公開している資料をもとに作成したものである点も、説得力を増す一因であり、孫さんの配慮が感じられる。

3) ステークホルダーへの配慮

視聴者が多い分、利害関係者も多くなる。論理としては賛成できるけれど、感情的な反論や個人的な利害から反論を述べる人もいるだろう。この「メタルから光へ」の流れに関して利害関係が発生する、NTTやNTTの株主、メタル回線の敷設・管理をしている技術者・労働者に対して、それぞれ「光の道」にすること のメリットを説明している。

NTTに関しては、光の道に変更することで企業の収益性を大幅に高めることができること、株主に関しては、株価の向上が見込めること、そして技術者・労働 者に対しては新たな仕事が発生すること。


4) 味方の支援材料の提供

「光の道」を実現することによるメリットを利害関係者別に個別に説明することは、光の道に賛成する人が第三者に説明しやすくする効果もある。営業担当者が、担当者に提案する際に、稟議を承認する意思決定者が理解しやすいように資料をつくるのと似たような感じだ。


5) リスクは自分がかぶる

充分時間をかけて、ステークホルダー全員にメリットがあることを説明したのちに、それを実現するためのコストは全て民間から調達できることを伝えている。 政府のお金(=税金)は一切使わないでいいと宣言し、変革に必要なコストは全て「それをやりたいという」民間で持つということだ。これは、孫さんとソフト バンクが変革に必要なリスクをかぶると言うことだ。(これはイチ営業担当では極めて難しい高度な取引だ)

継続的に必要となるコストが減り、ステークホルダー全てにメリットがあることを説明し、最後にそれを実現するためのリスクは全て自分がかぶることを宣言する。やらない理由をひとつひとつ消していったわけだ。


6) 期間と予算を明示し、実現までのイメージを抱かせる

プレゼンを通じて繰り返し、設備投資に必要な2.5兆円は全て民間から調達できること。日本の全世帯に光をひくという事業を5年でやることを述べている。 予算と期間を明示することで、実際にできるというイメージをもたせている。

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さて、孫さんのプレゼンはやっぱり凄いと感じたわけだけれど、一番凄いのはやっぱり事前の準備なんだろうと思います。これは、綺麗なスライドをつくるとかそういう意味ではなくて、データの出所を敵側の資料に求めるところとか、ステークホルダー全員にメリットをもたらすようなスキームを事前に描いておくことだろう。

しかも、リスクは孫さんがかぶると言う。(正確に言うと、この事業に参入したいという業者は自由に参加してくれ。ということだが、結果的に孫さんの経営手腕にかかれば一番シェアを握るのはソフトバンクになるだろう。)本当にやらない理由がないんだよな。

他に2点ほど、プレゼンを通じて感じたのは、孫さんの粘り強さと最終的にはきっちり自社が儲かる絵を描いていること。インフラを抑えることができれば、そこからの収入は安定的に、かつ膨大なものになる。これは凄い。孫さんにとっては、毎回当たるかどうかわからないコンテンツの分野で勝負するよりも、移り変わりが早いプラットフォームの分野で勝負するよりも、自分の知っている戦場、規制は厳しいが突破してしまえばひとり勝ちできる可能性のあるインフラの分野で勝負する方が、よほど勝算が高いと見込んでいるんだろうと感じた。

世界の一流の経営者のプレゼンには本当に学ぶところが多い。

ジョブズのプレゼンは天才的で、芸術的だと感じるけれど、孫さんのプレゼンテーションは正統派なだけに、努力すれば、全部は無理でも部分的には身につけることが出来るような気がする。もちろんそれには多くの努力が必要だけれど。


孫正義 起業の若き獅子孫正義 起業の若き獅子
著者:大下 英治
販売元:講談社
発売日:1999-07
おすすめ度:4.0
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※学生時代に読んだ孫さんの本。孫さんのプレゼンテーションは、全てのステークホルダーにメリットを提示し、リスクを自分がかぶること。それは一環して変わっていない。だから人から見たら大変難しく見えるような取引をまとめ上げることが出来るんだろうと思う。


ロジカル・プレゼンテーション―自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」ロジカル・プレゼンテーション―自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」
著者:高田 貴久
販売元:英治出版
発売日:2004-02-01
おすすめ度:4.0
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※孫さんという偉大な事業家だからこそ許されたプレゼン手法もあるのかもしれないけれど、基本は事実と数字を用いた論理的なプレゼンテーションだ。基礎を抑えるのであれば、この本がいいのではないかと思う。