資産を形成する。という分野に関して言えば、親が無意識の間に子の学ぶ機会を奪ってしまっている例がある。アメリカの億万長者を実証的に研究した、となりの億万長者に掲載されている例を紹介したい。
ビクターはアメリカに移住して、成功した起業家である。移民一世は一般的に倹約家で、社会的な地位は低い。自分に対して厳しく、ものをあまり買わない。リスクをとることを恐れず、熱心に働く。さて、移民一世が成功したあかつきには子どもたちに何というだろう?パパをお手本にしろと言うだろうか。パパの後を継いで屋根職人、掘削工、スクラップのディーラーになれと言うだろうか。いやいや、それは5人に1人もいないだろう。
ビクターのような起業家精神旺盛な移民はアメリカ経済を牽引する大きな原動力となっているが、彼らは子には自分と異なる道を進めるそうだ。子供にもっとよい暮らしをさせたいと思っている。子供には大学に進学して、医者、弁護士、会計士、会社役員などになれ、と勧めている。日本であれば公務員も候補にあがるかもしれない。

子供たちが自分で事業を起こすことには水をさし、無意識のうちに子どもが社会に出る時期を遅らせ、つましい我慢の連続の生活をしないようにと話してきかせている。
ビクターの子どもたちは、大学、大学院と進み、金を使うことを覚えてしまった。彼らは今やりっぱな蓄財劣等生。事業に成功したブルーカラーの父とは正反対になってしまった。彼らはみごとにアメリカナイズされ、お金を使うことを楽しみ、社会人になる時期を遅らせる世代として育ってしまった。ビクターの子どもたちのように。移民の二世、三世がアメリカナイズされるのに、たいした時間はかからない。一世代からに世代のうちに「普通のアメリカ人」になってしまう。だからアメリカは、ビクターのように勇気とねばり強さを持つ移民を常に必要とするのだ。
この文章を読み、不思議なデジャヴを感じる人はいないだろうか。
そう、僕らが暮らしているこの日本全体が、ビクターとその子どもたちのような状況に陥っている可能性はないだろうか。


■国の中心が移民三世に移りつつある

戦争に負け、焼け野原となった日本で若くして家族を支えなければならなくなった世代を、仮に日本移民一世と呼ぶとしよう(実際には移民でも何でもないが、それぐらい大きな環境変化があったという意味で移民という言葉を使う。)食べるものも、仕事もない彼らは質素倹約な生活を営むしかなかった。命があることに感謝し、喜びを感じただろう。仕事が無い中で、多くの企業が新たに生まれ、育っていった。朝鮮戦争特需があり、急速に日本経済は復活を始めた。

彼らの子供たちが親になる世代を日本移民二世と呼ぶとしよう。団塊の世代と呼ばれる彼らは、親の願いを忠実に叶えたことだろう。勤勉に勉強し、いい大学、いい企業に入る。日本経済は右肩上がりで成長し、収入は増え、家電を揃え、日々豊かになっていく日本と共に歩んだ。

そうなると今の30代40代は、日本移民三世だ。大学、大学院と進み、金を使うことを覚えてしまった。お金を使うことを楽しみ、社会人になる時期を遅らせる世代として育った。

今の20代は日本移民3.5世と言えるかもしれない。生まれた直後にバブルの崩壊を経験し、経済の成長を実感しない20年間を送ってきた。彼らは嫌消費世代と言われ、日本移民三世ほどは消費に魅力を感じていない。ただし、高学歴化は一層進んでいる。


■それぞれの世代が取り組むべきこと

さて、僕が言いたいのは世代論ではない。戦後の世代を3つに区切るのは乱暴だし、例外的な存在はいつの時代、どんな属性の集団にも存在する。今の世代の責任を親の世代に押し付けるのも、全く無意味なことだ。大事なことは今必要なのはどういう生き方が必要とされ、後の世代に何をのこすべきか、正しい認識を個々が持つことだ。

資産形成に関しての話を例として出したが、良かれと思って取り組んだことや伝えたこと、伝えられたことが悪い形で発揮されてしまう例は資産形成の分野以外にも数多くある。(子の教育はそうなりがちな代表的分野ではないだろうか。)

歴史を知り、教訓を学び取ることで、今、それぞれの世代が取り組むべきことがみえてくるはずだ。

参考エントリ:
経済学101:どうして三世の所得が低いか
経済学101:移民が必要な本当の理由


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