ビジネス視点からBOP市場を語る
その1:BOP市場の特徴
その2:ターゲット市場の特定
その3:マーケティング・ミックス Product / Price / Place / Promotion
その4:日本企業への提言
その5:市場を開拓する人材要件
経済産業省主催でBOP政策フォーラムが開かれたり、BOPビジネスに関する認知も徐々に広がってきたような気がしますが、これまで見てきたBOPビジネスの成功要因を振り返りながら、今回は日本企業がBOP市場でビジネスを展開するにはどうしたら良いか、具体的な提言を行って見たいと思います。
■BOP市場への進出タイミング
BOPというコンセプトをわかりやすく言い換えると、これまで市場と考えてこられなかった、年間の世帯収入が3000ドル未満の貧困層を、ビジネスのターゲットして考えることにトライする。と いうことに尽きると思います。市場が小さいと頭から否定するのではなく、どうやったら市場として魅力あるものに出来るか考えてみる。というわけです。
ただし、実際のところ、全ての企業がBOPを商品を売り込むターゲットと考え、その戦略を練るのは非現実的です(無い袖はふれないのです)し、BOPを市場として 捉えるというコンセプトの表面的な理解に過ぎないのではないかと思います(だからこそ、ネクスト・マーケットでは最初にBOP市場の住人に様々な方法で購 買力をつける必要性を説いているのです。)。
必要なことは、BOP市場を持つ国と共に手を取り合い成長することだと思います。それには様々な産業を巻き込み、産業毎にタイミングを見計らってBOP市場を保有する国々に進出する必要があります。
大まかにいうと次のような流れで、日本とBOP市場を持つ発展途上国の付き合いが深まっていくのではないかと考えます。
- 政府を巻き込んだ大規模取引 -黎明期
- 生産拠点の移転 -初期発展段階
- 中・高所得者層へのマーケティング -発展段階
- BOP市場へのマーケティング -成長期
1)政府を巻き込んだ大規模取引
これは、政府を通じたインフラの開発支援や資源の採掘権のやり取りなどが含まれます。政府同士の交渉や、総合商社など巨大資本が関与する領域です。ビジネ スを行うためのインフラを国が整えるタイミングです。資源を保有する国であれば、それが外貨を獲得する有効な手段となるのは間違いのないことでしょう。
進出段階は国の発展段階によって異なると思いますが、電力などのエネルギー供給及び水道などの生活に必須のインフラと、資源採掘な どは経済が未発展な状況でも政府を中心に真っ先に取り組まれるビジネスになると思います。
一方、インターネットなどの通信網、及び公共交通機関(バスや新幹線)などはもう少し後、国民の生活水準が向上した後に進出チャンスを迎えることになると 思います。その際は、両国の政府と民間が協力しながらそのインフラを築くことになると思われます。
2)生産拠点の移転
政府を巻き込んだ大規模取引の次にチャンスが巡ってくるのが、生産拠点の移転です。これは日本のメーカーなどの中には既に行っているところも多いと思いま す。現地に雇用を創出し、安く品質の良い品を世界に届ける。現地の購買力を高める。というフェイズです。
教育水準、技術力の高い国であればITなどの情報産業の格好のアウトソース先になります。日本のIT企業、ゲームメーカーでも、業績がそこそこ高いのは、 生産を中国やベトナムといった東南アジア、ロシアや東欧に移転し良好な関係を築いている企業だと思います。
また、政治的に不安定で教育が充実していない国々では、労働集約型の産業が主役になるでしょう。日本の衣料の生産拠点がまず中国の縫製工場に移り、現在は ベトナムに移っているように、他の東南アジア諸国やアフリカに移るということは十分考えられることです。
例えば靴や鞄、漆器など、職人が手作りで作り上げるような作品も労働集約型である以上、生産拠点を海外に移せる可能性は十分にあります。
こういった労働集約型の産業の場合、原料と労働力を現地で確保できることが大事になります。
3)中・高所得者層へのマーケティング
次に可能性として浮上してくるのが、途上国の中・高所得者層へのマーケティングです。中国での富裕層が急速に拡大していることは自明のことですが、どう いった国であっても事業に成功し財産を築いた人々は存在します。この層をターゲットにビジネスが出来ないかを考えるのが次のステップになるのではないかと 思います。
このタイミングでの主役は、日本国内にいる機動力の高い小規模企業が中心になるかもしれません。例えば日本で販売されているアニメや、下着、パソコン。そ ういったニッチな市場を求める富裕層に対して機動力を活かしてサービスを展開していく。そういったベンチャー精神溢れる小規模事業主が活躍するのがこのタ イミングなのではないでしょうか。正確に定義するのであれば、富裕層を相手にする以上、これはBOPではありません。しかし、将来BOP市場に進出する足 がかりをつくる上で、日本と諸外国との間に流通のコネクションを築いておくことは、小規模事業主にとって大きなアドバンテージになりえると思います。(例 えば日本国内の大手企業の販売、マーケティングを支援するという形のビジネスに発展する可能性もありうるのではないでしょうか。)
4)BOP市場へのマーケティング
さて、最後のフェイズがBOP市場へのマーケティングのフェイズになります。世帯の年間の可処分所得が3000ドル未満の層に対して、様々なサービスを提 供していく。一層のイノベーションも必要だし、現地の住人を巻き込む活動も必要になってきます。
しかも、難しいのは、BOP市場が市場として十分美味しいものになってからこの市場に進出するのでは遅いと言うことです。既に 先駆者が市場と情報を抑え、参入障壁を築いていることと思います。だからこそ、日本国内の企業がBOP市場に進出するためには生産拠点なり、それなりの所 得を持つ層に対して財・サービスの提供をするなりして、市場の理解を進めておく必要があるのだと思います。これがなかなかに難しい。
例えばアフリカ国内の自動車シェアはトヨタが一番ですが、新車ばかりではなく中古車での購入が多いのではないかと予測します。新興国で使われなくなった中 古車を安くアフリカに提供するような流通スキームを主体的に整え、ブランド認知を10年~20年という長期スパンで考え、投資しておくという長期戦略が、 今の日本企業には必要なことなのではないかと思います。(トヨタのことですから、もうそれぐらいのことはやっていると思いますが。)
■まとめ
新たなビジネス機会として、BOP市場はおおいに注目を集めています。コンセプトとしてこの言葉はキャッチーで、経済産業省が中心となってセミナーを行う までになりました。確かに、先進諸国の需要は頭打ちで、新たな成長の可能性を示すこの言葉は非常に魅力的なものにうつります。
しかし、理解しておかなければならないのは、BOPという言葉はビジネスコンセプトのひとつに過ぎず、その視点は素晴らしいけれど、あくまで既存のビジネ スの延長線上に魅力的な市場が広がっているということなのではないかと思います。
- 新興諸国はそれぞれ異なる経済の状況を抱えている
- 必要としている財やサービスもそれぞれ異なる
- とはいえ、他社より一足早く市場に進出し、橋頭堡を築かねばならない
まとめるとこのような形になるのではないかと思います。他社より早く、新興諸国に対する調査と理解を深め、コネクションを築かねばならない。それは新時代 も成長を続けるには、間違いなく必要なことだと思います。
しかし同時に闇雲に海外に進出するのではなく、BOPという言葉に踊らされるのではなく、勝算を見据えて動かねばならないと思います。そう考えると、日本 の多くの企業は(2010年3月というこの段階では)まずは新興諸国の経済状況についてよく知る段階なのだと思います。中国・インドといった国ごとに魅力を判断するのではなく、各国の状況、自社の事業規模や特性に応じて魅力的な市場・ビジネスパートナーを個々に見極める段階に今はいるのではないかと思います。
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