昨日のエントリには思ったより反応を頂いて、若干プレッシャーを受けています。
僕がこれまで読んだセールスの本の中から、大変役にたったものをエピソードを交えて紹介したいと思います。

■僕の性格・資質


前回のエントリでは、性格・資質を知ることが重要と書きました。故に今回紹介する本も、僕の性格・資質だからこそ役に立った本とも言えます。僕の性格・資質とは、

  • 決して論理的ではないけれど、論理的であることは好きだし、求められたし、磨いた。
  • 顧客にどういうメリットを提供することが出来るかということを、自分で考えるのは好き。
  • 初対面で抜群の好印象を与えることが出来るタイプではない。どちらかというと、生意気そうに見られるし、可愛げがないタイプ
  • 営業は確率ということはわかっていても100本電話して1本アポが取れるテレマを延々できるほど、精神的にタフではない。
  • 自分が惚れ込んでいない商品はオススメするのが悪い気がして、セールス出来ない。

こんな感じの性格・資質です。一言でいうと、営業担当というよりも、エンジニアやコンサルタントに多いタイプなのではないかと思います。

ちなみにですが、僕が最初に入った会社では、1ヶ月半ほど営業研修なるものがあるのですが、最初こそ真面目に取り組んでいたものの、後半に入ってからは街に出て時間をつぶすだけの毎日を送っていました。もちろん営業成績は最下位です。


■SPIN式販売戦略という伝説


さて、そんな僕を開眼させてくれたのが、このSPIN 式販売戦略という本です。残念ながら絶版となっており、再販が願われているのですが、現在は中古でプレミアがついて3000円程度で販売しています。

この本に書いてあるセールス手法は本当に合理的で、僕のように口下手で、生意気そうで、小賢しそうな、いわゆる「可愛げのない」セールスパースンには本当に素晴らしい本だと思います。

ただし、いくつか欠点もあるのでご注意ください。

  • 発掘手法については書かれていません。
  • 大型商談(書籍の中で、100万以上と仮に定義されています。)にしか使えません。
  • リピートオーダーを得る方法については書かれていません。
  • それなりに競争力のある商品(なり企画)を持ってないと使えません。

SPIN式販売戦略―売り上げが驚くほど伸びるSPIN式販売戦略―売り上げが驚くほど伸びる
著者:ニール ラッカム
販売元:ダイヤモンド社
発売日:1995-06
おすすめ度:5.0
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故に大型の産業機器や企画提案を中心とする仕事をされている方にオススメする本です。発掘に関してはマーケティング系の本を読んでいただくしかありません。(これも良書が少ないのがネックですが、セールスよりははるかに科学されているものが多いと思います。)

いくつか、この本を通じて体感した伝説的なエピソードを紹介したいと思います。


1)SPIN式との出会い

僕がコンサルタントとして働いていた時代に、先輩に勧められてこの本を読みました。その先輩は、様々な企業のセールス部隊の改善を行っている剛腕のコンサルタントだったのですが、ネタ元はすべてこの「SPIN 式販売戦略」と「セー ルスパワー倍増プログラム」だといって笑っていました。(本当に同じパターンの商品を売り続け、成果を出し続けてたんですよね。)

その先輩は、ほとんど一人でセールス部隊の強化プログラムをつくり、成果を挙げていました。どの案件も1000万を超える案件ばかりだったし、成果がでるので紹介につぐ紹介で、顧客が途切れることもありませんでした。先輩がやっているのは個人で出来るようなコンサルティングだったし、パターン化されているプログラムだったので、いつしか組織に属しているのがアホらしくなって先輩は独立しました。


2)SPIN 式で営業担当もこなしたよ!

その後、僕も転職し事業会社の営業責任者となりました。まぁ、営業の勉強してきました。と半ば嘘をつ いて営業責任者のポジションを得たわけです(転職先の業績が悪化していたので出来た強引な転職でした)。

昔から僕には営業担当者に必要と言われる「可愛げ」のような資質が不足していたのですが、先輩のコンサルティングや営業を思い出しながらやってみようと「SPIN式販売戦略」に書かれている手法を試しました。

これは、4つの質問

S … Situation Questions(状況質問)
P … Problem Questions(問題質問)
I … Implication Questions(示唆質問)
N … Need-Payoff Questions(解決質問)

を通じて、顧客を知り、問題箇所を示唆し、解決策を提示するという、コンサルティングのプロセスをそのままセールスに応用できたので、僕でも実践し、顧客から仕事を頂くことができました。

状況質問は、相手が今おかれている状況をさらっと聞くもので、(聞きすぎると身構えられるし、不信がられる)その後の質問のインプットとする質問。問題質問は顧客が現在感じている問題に気づかせるための質問。そして、一番大事なのが示唆質問なのですが、これは会話をしている相手自身に「こうやったら抱えている問題を解決出来る!」と気づかせるための質問です。

顧客が解決策を自分で思いついているわけですから、これはもう実行したくてたまらなくなっているわけです。ちなみに、下手くそなコンサルティングセールスの場合、「こうやれば解決できるんですよ!」と上から目線で押し付けるので、前に進みません。(もっとも、完成されたコンサルタントのプレゼンの場合は、やっぱりスライドをめくるごとに相手に解決策を示唆し思いつかせるように設計されているんですけどね。 ただ準備万端なので、やっぱり身構えられます。)

可愛げがない。どうやって営業すればいいのかわからない。という人ほど、このSPIN式は役立つのではないかと思います。

もともとコンサルティング会社につとめていた人が、様々な営業手法を実行・観察し、データを元にその有効性を検証しつつ書いた本なので非常に説得力があります。個人の体験を元にして書いた本ではなく、その裏には科学があるのです。

ただ、注意点もあって、僕は経験したことがないのですが、SPIN式の研修をやっているコンサルタントの人の中には、「やりすぎると顧客を追い詰 め、怒らせる」と述べる方もいらっしゃいます。僕はSPIN式をきちんと身につけることができてないだけではないかな。とも思いますし、実際に顧客を怒らせた経験がないのでなんともいえませんが、念のためつけくわえておきます。

このSPIN式を身に付けてもうひとつ素晴らしいと感じたのは、様々な人とのビジネスアイディアのブレストにも使えること。状況を聞き、問題を明確にし、様々な示唆を与えあうように会話をすすめ、解決策をまとめる。どんなディスカッションにだってつかえます。プレミアがつくのも頷ける、手元においておきたい一冊です。

※余談ですが、絶版になっていることからもわかるように、科学を中心とした営業手法を嫌う旧来の営業人にはこの本は好まれないと思います。気合と根性と出会いだ。って言ってる方が、指示する方は楽ですから。自分はもう営業する必要もないので、俺はかつてこうだった。と 思い出を語ればいいだけですし。


3)営業センスのある人がSPIN式を身につけると、もう無敵。

僕は、SPIN式のノウハウを身につけて、せこせこと営業実績を積み上げていたわけですけれども、そんな僕にも後輩が出来て、彼は「可愛げ」というか、天性の営業センスを持っていたわけです。 何か参考になる営業の本はないか。というので、それまで秘蔵していたSPIN 式販売戦略の本をオススメしたわけです。彼はその本を読み、自分で研修会社がやっているセミナーにも参加したところ、メキメキ営業成績を上げて、 その年のトップ営業マンになったのです。(まぁ、当然僕の成績なんてあっという間に抜かれましたよ。)


余談ですが、営業のマネジャーを勤めておられる方には、

DIPS(ディップス)実践によるセールスパワー倍増プログラムDIPS(ディッ プス)実践によるセールスパワー倍増プログラム
著者:小林 忠嗣
販売元:ダイヤモンド社
発売日:1993-08
お すすめ度:4.0
クチコミを見る

をオススメします。この本も絶版になっていますが、1円で売ってます。この本は、セールスを高める前に、セールスを科学する組織体制・構造を構築しましょう。という主張の本で、自社の営業のどこに着目して改善して行けばいいのか、考える参考になる本です。 会議のやり方なども書いています。SFA等を活用されるのもいいのですが、ツールは使っているが効果的に指標やマネジメント設計が出来ていない。という方 におすすめします。おそらく費用対効果は最高です。(なんせ一円ですから。)

ちなみに、この本の評価が低いのはおそらく、この本を出版しているコンサルティング会社が今にも潰れようとしているからだと思います。(財務的には既に死 んでいます。)

ただ、その原因となったのは、決してこの本が悪かったのではなく、むしろ良すぎたからと考えてもいいかもしれません。つまり、セールスが圧倒的に強化されるわけです。この本に書かれている内容を元にしたコンサルティングパッケージはこの会社の十八番となり、商品開発の努力を怠り、それを自社の営業力でカバーしようとした(そして出来た)ためにますます悪評がたち…。という悪循環構造に入ってしまったわけです。

営業力強化によって一時的に商品が売れるようになっても、商品そのものの魅力を高め続けなければ、実はそれはクレームのもととなるわけです。組織を挙げての営業力強化は時に麻薬となります。

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昨日も述べましたが、営業は凄くざっくり分けても、発掘→セールス→リピートのプロセスに分けられますし、それぞれの中身も違います。また、営業力が強くても商品力が弱ければ、その営業は悪い方向に向いますし、黙っていても顧客が集い、繰り返し購入するような構造を作り上げることができなければ、営業担当者は疲弊します。

故に、今日紹介した2冊は本当に部分的な解決策にしかなりませんが、それでも書店に並んでいる営業に関する本の9割よりは、役に立つことが多いのではないかと思います。読むべき2冊として、是非いつか手にとって眺めてみてもらえればと思います。


※2010年5月12日追記

papさんからコメントでご紹介頂きましたが、絶版となったSPIN式販売戦略が販売元を変えて再度発行されているようです。SPIN式販売戦略が中古で安く手に入らなければこちらの購入をおすすめいたします。

SPIN式に関しては他にもいくつかの本が出ていますが、表面的な理解で終わらせるのではなく、しっかりと身につけるためにも、まずは手法の開発者であるニール・ラッカム氏の手による書籍を読まれるのがいいのではないかと思います。

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術大型商談を成約に導く「SPIN」営業術
著者:ニール・ラッカム
販売元:海と月社
発売日:2009-12-16
おすすめ度:4.5
クチコミを見る