生命は、地球環境を相手に、まさに「死ぬ」まで続くゲームをやっているのだ。(中略)そういう、種として対応しきれない環境変化が起こった時、種は絶滅する。

生物種の生き残りのための戦略はそれ故、「多様性」となる。

寒さに強いもの、暑さに強いもの、土に潜れるもの、空を飛べるもの。皆揃って討ち死にしないよう、いろいろな「生き残りの戦略」を試しているのだ。

そこでの鍵は「変化が起こる前から準備する」だ。環境の激変が起こってからでは間に合わない。出来ることは知れている。事前に多様性を生み出しておくこと、内包させておくことが企業にとっても「永続的成長」のための必勝法なのだろう。

僕はこの一節が好きで、ことあるごとに引用しているのだが、個人のキャリア戦略にもこの考え方は活かすことが出来る。

ワークスアプリケーションズの牧野社長( @masayukimakino )は、ベンチャー企業経営者の中でもとびきり人材採用と育成に時間とお金をかける方だが、彼は優秀な人材の定義について長年考え続け、「ロジカルシンキング」「クリエイティブシンキング」に長けた人材という結論を導き出したという。

ロジカルシンキング/クリエイティブシンキングという言葉を使うと、「横文字でわかったように語るなよ」という批判も出そうなので、より僕が好む例えを用いて説明しよう。それはハチ(蜂)の思考とハエの思考というものだ。

ハチというのはまっすぐ直線的に飛ぶ。だからこそ、目的地まで最短距離で辿りつくことが出来る。一方、ハエというのは、ランダムに飛ぶ。あっちにいったりこっちにいったり、無規則に飛び回る。故に目的地までスピーディーに辿りつくためにはハチのように飛ぶことが大事なのだが、一方で問題もある。

ハチの進行方向にあわせてコップをかぶせるとする。(図参照)

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ハチはまっすぐ直線的に飛ぶがゆえに、コップの片方の口は大きく開いているにも関わらず、コップから出られなくなってしまうというのだ。こういう場合、ハエは強い。無作為に飛び回るので、3方向が閉ざされていても、一方向が空いていれば、簡単に抜け出てることが出来る。

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言ってしまえば、これがロジカルシンキングクリエイティブシンキングの違いだ。ロジックを積み上げて答えを導き出す作 業。あるいは仮説という目標を定めて論理を展開・検証する作業。これはロジカルシンキングの真骨頂だ。これに対して、クリエイティブシンキングとは自由に 発想する。無駄も多い。けれど、ロジカルシンキングで行き詰った時。あるいはだれもが思いつかないようなアイディアを発想するときにはこのクリエイティブ シンキングが使える。

時にこのハチの思考とハエの思考アリの集団の役割にもたとえられる。アリの集団は構成員のパフォーマンスの高低を説明するときによく引き合いに出される。たとえば次のような用い方だ。

どのような組織にも2:6:2の法則が成り立つ。2割はすぐれたパフォーマンスを発揮する社員。6割は普通の社員。そして2割は怠けものの社員だ。しかし組織とは不思議なもので、優秀な2割をこの組織から除くと中間の6割と下の2割がせりあがって、優秀な2割が生まれる。逆に怠け者の2割を除くと新たに怠け者が生まれる。これは人の組織に限らずアリの集団でも見られる。8割のアリは懸命に餌を巣に運ぶが2割のアリはふらふら遊びまわっている。

一見、説得力のある見解に見えるが、これは実は2重の意味でウソだと言われている。アリの世界で、実際に2割のよく働くアリを集団から取り除くと、普通だった6割のアリのうち、ちょっと優秀だったアリが懸命に働きその穴を埋めるようになる。けれど、ダメなアリはダメなままでさぼり続けている。という。

しかし、このダメなアリを取り除くと、全体のパフォーマンスが低下することも知られている。ゆえにダメなアリはたださぼっているのではなく、餌を一直線に巣に運ぶアリとは違った役割…。すなわち、ハチの思考ハエの思考でいうハエの役割を担っているのではないかと考えられている。ふらふら動きまわり、新たな餌を発見したり、外敵の存在をいち早く察知し、仲間が安心して運べるように仕向ける…。などだろうか。


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さて、話を戻そう。選択と集中という言葉があるように、ある一定の期間、何かに集中するというのはいいことだと思う。限られた時間・経験でそれなりのパフォーマンスを発揮するためには集中することが必要だ。僕自身も社会に出てから最初の5年間ぐらいは仕事のことしか考えなかったし、極端な話、ビジネス書しか読まなかった。目的がハッキリしていれば、そういう時期があってもいいと思う。

一方、特定の能力ばかり伸ばすと、コップに閉じ込められるハチのように、パフォーマンスが限界に達してしまうこともおおいにあると思う。著名な経営コンサルタントの山本真司( @yamamoto_shinji )さんは30歳になってからはビジネスと関係のない本ばかり読んで、発想を広げたり、問題解決のヒントを得たりしていたと著書の中で述べられている。前述の三谷さんの観想力の記述を見ても、逆説的だが、ビジネス以外のところにビジネスのヒントがあるようだ。

もちろんこれは、読書に限ることではなく、人脈についても同じことが言えるだろう。昨日のエントリで、特定の組織に寄らず求められる人材になるためには、信頼できる人脈が大事。ということを書いたが、仕事を通じて得られる人脈だけでは限界がある。仕事だけではなく、家族との関わり、地域のコミュニティ、社外のプロジェクト(有償、無償問わず)、遊びなどが大事だと感じるのはこの理由からだ。

収入を安定させるには、3つぐらいの収入源を持ったほうがいいと言われる。
経営を安定させるには、特定の大口顧客に頼り切らない仕事が望ましいと言われる。
読書に関しても一つの分野に偏らないほうがいい。


同様に、選択と集中の時期を超え、このままでも限界が来ると感じたら、仕事以外の活動に思い切って取り組んでみるといいのではないかと思う。


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