ビジネス視点からBOP市場を語る
その1:BOP市場の特徴
その2:ターゲット市場の特定
その3:マーケティング・ミックス Product / Price / Place / Promotion
その4:日本企業への提言
その5:市場を開拓する人材要件
今回はBOP市場でマーケティングに取り組む際に抑えておかなければならない要素を、Priceの視点から見ていくことにする。
■Price
BOP市場で最も特徴的なのがこのPriceの要素だ。BOP市場は年間の世帯収入が低い。故に、財・サービスも極めて安価に提供しなければならない。BOP市場が工夫すべきは下記の3点だ。
- 低コストでの生産体制を実現する
- 財・サービスのパッケージングを工夫する
- 購入方法を工夫する。支援する
1)低コストでの生産体制を実現する
経営努力としてあたりまえの事ではあるが、まず第一は低コストで財・サービスを生産できる体制を実現することである。とはいっても、偶発的なイノベーションに頼るだけでは低コスト化は実現できない。
- 現地での生産体制を強化する
- 大量生産による経験効果を活かす
- サプライチェーンを再設計する
・現地での生産体制の強化
こ れは改めて述べるまでもないことだろう。BOP市場で販売する低価格商品を先進国で生産し、輸送していたら採算が取れるはずもない。先進国からの人材派遣 は極力抑える。現地の低コストの労働力を活用して生産し、現地に販売する。基本をこの考え方におくことが大事だ。BOP市場では、工場の機械化を促進する資本集約型な生産体制よりも、現地の労働力を活用する労働集約型の生産体制のほうが効率的で、規模の拡大に柔軟に対応できる可能性がある。また、現地の雇用にもつながるし、現地の雇用は財・サービスに対する信頼と販促効果を生み出す。
南アフリカでのトヨタの現地生産開始は、米国や英仏よりもはるか前の62年。ダーバン工場の年間生産台数は18万台弱で、規模では中国・広州工場とほぼ等しい。ダーバン工場は欧州向けカローラの一大輸出基地でもあり、現地の雇用創出に貢献してきた。トヨタ車のシェアはアフリカ全土で18%、南アフリカでは24%に迫り、一位を堅持している。
・大量生産による経験効果を活かす
経験効果はボストン・コンサルティンググループによって発見され、提唱された効果であり、wikiにおいて次のように紹介されている。
経験曲線効果は、ある業務がより頻繁に実行されるようになると、そのコストが減少することを表す。これはどのような商品やサービスにも適用できる。累計での生産回数が倍になるごとに、生産回数あたりの総費用(生産、管理、マーケティング、販売を含む)は一定かつ予測可能な速度で減少する。こうした効果は1960年代の後半、Boston Consulting Group (BCG)社のB.Hendersonによって提唱された。1970年代にBCG社によって行われた調査により、この効果は様々な産業において確認された。財やサービスを大量に生産すると、生産・販売プロセスの様々な分野でイノベーションが起きるために、生産コストは一定かつ予測可能な速度で減少する。故に当初は利益を極力抑えたとしても、初期段階で一定のシェアを勝ち取ることに成功さえすれば、その後は大きな利益を得られるようになる。経験効果を念頭において、価格設定及び、柔軟に拡張可能な初期投資を行うのが望ましい。
・サプライチェーンを再設計する
先進国と同様の方法で資材の調達や販売をしていたのでは、とてもコストに見合った開発ができない。先進国のサプライチェーンのあり方をそのまま導入するのではなく、現地にあった形でサプライチェーンを再構築すべきだ。
例えば、メキシコに本拠を置く大手セメントメーカーのセメックス社は、スラムにいる低所得者層にセメントを販売するために。ソシオとプロモーターという役割を設けた。ソシオはセメントの購入のために貯蓄と支払いをお互いに監視・協力しあう組織だ。一方、プロモーターとはソシオに入会を支援した人の、人数と在籍期間によって歩合制で報酬を得る起業家集団だ。(構成員の98%が女性である。)これは商品の販売を現地住人に委託した例と考えられる。BOP市場ではそれがもっとも効率的な広報手段であり、販売手段だったのだ。同様の手法は、インドのヒンドゥスタン・リーバ・リミテッドがシャクティという組織で実線している。
また、インドのITCという企業では、サンチャラクという役割を農村に設けた。サンチャラクはITCによる研修を受け。家にインターネットに繋がるコンピューターが設置される。農民はサンチャラクの家で農作物の売買価格を確認したり、農具を購入したりする。サンチャラクは自身も農業を実線しており、豊かすぎもせず、貧しくもなく、地域で尊敬を集めている人が選ばれている。コンピューターで農民とITCとの間で取引が成立する度に、サンチャラクの元にITCから手数料が支払われる。これは教育をアウトソーシングした例として考えられる。
2)財・サービスのパッケージングを工夫する
BOP市場の消費者達は購買力に余裕がない。その日に必要なものを必要な分だけ購入する。故に、商品のパッケージは先進国で提供されるものよりも小分けにしたもののほうが一般的には求められる。
消費や選択の幅を広げるため、BOP市場で急速に発達しているアプローチとは、一回分の「使いきりパック」であり、量を少なくした手頃な値段の製品である。(中略)インドのシャンプー市場は、トン単位で算定すると米国市場と同規模である。~貧困層は富裕層と同じくらいブランド志向であり、P&Gの高級シャンプーである「パンテーン」もインドでは使いきりパックとして購入できる。
3)購入方法を工夫する、支援する
先に例として挙げたセメックスのソシオは貯蓄と信用販売をグループ単位で行う組織だ。
これは女性三人を1グループとし、グループ全体で貯蓄させ、計画通りに進むように互いにルールを守るといったプレッシャーをかけさせている。自宅に浴室や台所を増築できるようになる貯蓄プログラムと信用販売をセットにすることで、消費を促進させた。ブラジルのカサス・バイアでも同様の取り組みが行われている。これはグループ単位ではないものの、個人の貯蓄額に応じて信用販売の枠をカサス・バイアで提供するというものだ。独自の評価基準によって信用を与えることにより、顧客に誇りと満足、そして購買力を与えることに成功した。
以上がBOP市場でのPrice戦略に関する考察だ。実際のところBOP市場の消費者が購入出来る財・サービスを作り出すことができるかどうかは、どれだけBOP市場の消費者を自社のサプライチェーンのプロセスに巻き込むことができるかどうかにかかっている。
市場にあった財・サービスを市場にあった形で提供するためには現地の住人を巻き込むというプロセスが必要不可欠になる。これが、BOP市場の開拓を先進国内にある本部や、先進国政府が主導しても上手くいかない決定的な理由のひとつだ。(かつての商社マンのように、市場を開拓してこい、という指示だけ受けて優秀なビジネスパースンが単身渡米するぐらいのほうが、BOP市場の開拓は上手くいくのかもしれない。)BOP市場開拓を真剣に狙う企業であれば、現地の消費者やスタッフと円滑にコミュニケーション出来るリーダーを育成が出来るかどうかが鍵になる。
さて、次回以降はPlaceとPromotionの視点からBOP市場でのマーケティングに関して詳しく見ていくことにしたい。
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ところでミクロ経済学の連載楽しみにしていました。全巻は無理でしょうが、是非3章までお願いします。八田さんも「3章まで読めば経済学の基本が分かる」とか書いていました。3章は刺激的なので、fukuiさんのまとめが楽しみです。
ウォール街のランダム・ウォーカーは学生の頃(1990年代)に友人に勧められて購入したのですが、当時は何をいっているのかさっぱりわかりませんでしたw
今は、ぐんぐん読めるので、自分の脳の進化を感じています。
お金の運用術の本は実際に成果につながるという意味で、投資対効果が高いと思います(怪しげな本もたくさんありますが。)「超簡単 お金運用術」も読んでみます。
ところで、ミクロ経済学の連載は、今週はちょっと月末と重なって更新しなかったのですが、しつこく続けていこうと思っているのでご安心ください(読んで頂きありがとうございます!)あまり面白くもない記事とは思いますが、僕自身、理解を深めるために書き続けていこうかと思っています。
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