■「はたらく」の本質ってなんだろう

はたらくことについて少し突っ込んで考えてみた。
はたらくことに関して、次のような理解をしている人も多いのではないだろうか。

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実際のところ、あまり難しく考えても特にメリットもなさそうだし、僕も長い間ずっと上記のように理解をしていていた。つまり、労働というInputをして、、お金というOutputを得るという活動だ。(労働の対価を名誉や社会貢献、やりがいといったお金以外に求める人もいるだろうから、付加価値という表現に変えても良い。)

ただ、最近自分の仕事を振り返ってみると、このような理解をしているままだと、自分のキャリアアップの方向性や取るべき戦略を誤ってしまう。と感じることが多くなった。実際のところ、現代社会は上記の図のようには動いていない。

今の社会の「はたらく」をより正確に表すと次のようになるんじゃないだろうか。

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まず、知識があって、それを労働で加工して、お金に変えている。これがはたらくってことなんじゃないだろうか。

たとえば、小説家の場合、物語の流れや着想といった知識(コンテンツ)があって、それを文章にする、製本するという労働があって、最後にそれが売れることによって対価を得る。こういう流れなんじゃないだろうか。

製本やレイアウトなどは昔は人力でやっていたけれど、今は多くの部分をITや機械が代替してくれるようになった。文章にするところも、実は必ずしも自分がやる必要はなくて、面白いストーリーを思いついたら、それを書くことに長けたライターに文章にしてもらうことも出来る。

労働というものが、どんどんITや機械など自分じゃない誰かに代替できるようになってきたので、お金(付加価値)の源泉(Input)という意味で、知識の重要性が飛躍的に高まっているのが現在の状況じゃないだろうか。

知識-労働-お金の関係をもう少し詳しく事例で示すと、次のようになる。
  • 売れる小説家や漫画家のお金の源泉は、ストーリーを構築する力だ。それは、様々な漫画や本、映画を見て得られる知識や経験を通じての感性によって得られる。もちろん、執筆や絵を書く力も大切なのだけれど、ある意味そこはアシスタントに代替できなくもない。(本宮ひろ志などは、登場人物の顔しか書かないという。一方、村上春樹は文体が、井上雄彦は絵柄そのものが一つの芸術だ。しかし彼らの場合もやはりストーリーテリングの力が卓越しており、そこが付加価値の源泉であることに違いはない)

  • コンサルタントの場合は、キレイなパワーポイントをつくることが付加価値の源泉ではない。人を動かすところに本当の価値があるわけではない(そこは代替できる)。やはり価値の源泉は問題解決の方法を立案するところにあり、それは、研ぎ澄まされた思考力・分析力そして、問題解決のパターンといった様々な知識から来る。

  • 経営者も経営力の源泉は知識から来るだろう。実際に経営者が前線に立って働くことは、現場のモチベーションアップ等の効果はあるかもしれないが、経営者の仕事の本質ではない。

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資格の取得なども、知識をお金に変える一手段と言えるだろう。ここには表していないが、プログラマも料理人もほとんどの仕事は知識が付加価値の源泉であり、それを技術や労働によってインプリメンテーションし、お金に変えている。

もし、知識が必要のない技術や労働であれば、それはすなわち誰でもできる仕事を意味する。短期的には、生み出す付加価値が小さい(≒低い給与)に繋がるだろうし、中長期的に見れば、機械やコンピューターに代替される。


■知識の身につけ方


さて、知識という言葉を使ったけれど、知識という言葉が示す意味については補足が必要だろう。これを説明するために、P.F.ドラッカーの次の言葉を引用する。
はじめに知っておくべきことは、自分が読む人間か、それとも聞く人間かということである。つまり、理解の仕方に関することである。
机に座り本や資料を読んで得られるものだけが知識ではない。人と話したり、経験する(≒聞く)ことによって得られる知識もまた重要だ。ドラッカーは両方得意という人間はほとんどいない、と述べている。自分が得意なのはどちらかを早い段階で把握し、それを活かして知識を身につけるのが得策だろう。

経営者になる人の多くは、聞いて(経験して)知識を得るタイプが多い。多くの経営者は読書家でもあるけれど、自分の経験に照らし合わせながら読むので、知識を得るスピードは誰よりも早くなる。

一方で、学者や新卒でコンサルタントになるような人は読んで知識を得ることが得意な人が多いだろう。コンサルタントになると、読むことで得た知識をどんどんアウトプットし価値に変えることが求められるので結果的にバランスのとれた優れたビジネスパースンとして成長する。

学者の場合はアカデミアで活躍しようと思ったら論文という形でアウトプットすることになると思うのだが、社会に対してブログや書籍を通じ自分の意見を発表して行くことで、聞くことによる知識も得られるだろう。


■知識をお金に変える

自分が主にどちらの力に秀でているかを意識することは重要だ。

読むことで知識を得るタイプの人が、現場体験(=聞く)を重視する会社に入ると、知識を吸収する効率は非常に悪くなる。そういうタイプの人は、100件飛び込みをしても、100件テレマをしても、商品の宅配を経験しても得られるものは少ないだろう。「頭でっかちで使えない」という、喜ばしくない評価を得ることになるかもしれない。

読むことに長けている人が自分の知識を活かして勝負しようとした場合は、得た知識をどうお金に変えるか、常に考えて生きることが重要だ。現在、社会問題のひとつとなりつつあるポスドク過剰の問題は、根本的には、アカデミアに残るという道を知識をお金に変える唯一の方法と考えている人が多いことにあるだろう。自分の知識をどのようにすればお金に変えれるのか、常に意識して学ぶことが大切だ。


一方、聞く(≒経験する)ことで知識を得るタイプの人の問題点は、定期的に環境を変えるか、読むことによる学習を自分の中に取り入れないと、成長がストップしてしまうことだ。自分の経験や人の話から学ぶことが得意な人は、仕事をはじめたばかりの頃はおおいに活躍する。教えてくれる人がいて、仕事をすることそのものが学びに繋がる。故に、出世や成果の創出も早い。

しかし、彼らの成長は早い段階で一度ストップする。自分に新たなことを教えてくれる人がいなくなると、得ることの出来る知識が極端に少なくなってしまうからだ。ジョブローテーション等を通じ、定期的に環境を変えることで、知識の習得効率を高めている企業も存在するが、その場合は専門性に欠ける等の弊害も出てくる。自分のキャリアを意識し、環境を選ぶ努力と読んで学ぶ学習スタイルを取り入れることが重要だ。

成長が伸び悩んでいる企業の多くは、聞くことで成果を出してきたが、今は成長がストップしてしまった人が要職についていることでも生じている。自分の体験を唯一の拠り所として、新しい知識を得ようとしない。試そうとしない。そういうトップやミドルが多い会社の成長がストップするのは当然ともいえる。


■最後に…

あなたは、自分が読む人間か、聞く人間か理解しているだろうか。
あなたは、今、積極的に知識を得る活動をしているだろうか。
得た知識を、お金に変える方法を明確に描けているだろうか。

もう一度、自分自身に問い直してみるといいかもしれない。これからは、知識がお金(付加価値)の源泉となる。