深くておいしい小説の書き方―ワセダ大学小説教室 (集英社文庫)深くておいしい小説の書き方―ワセダ大学小説教室 (集英社文庫)
著者:三田 誠広
販売元:集英社
発売日:2000-04
おすすめ度:4.0
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僕は今、文学賞に応募するための短編小説を執筆しているのだけれど、原稿用紙70枚ぐらい書いたところで、限界のようなものを感じ始めた。ようは「面白くない」と思い始めたのだ。ある程度までは一気にかけたし、ショート・ショートであれば良いのかもしれないが、小説のわりには深みがない。

そこで、あらためて小説というものを基礎から勉強し直そうと思って買ったのが本書だ。この本は、正直いって凄い。芥川賞作家の三田誠広氏が早稲田大学で小説の書き方講座を持たれた時の講義録なのだが、さすが文学の早稲田というに相応しい内容だ。早稲田の一文と言えば、変態が集う場という印象(失礼!褒め言葉だと思ってください)があるが、こんな講義を受けていたら変態にもなるだろう、と思う。


■文章を書く力が今ほど求められている時期はない

ネット時代が到来し、人が読む文章量は30年前の3倍にもなっているという。( 経済学101:読む量は増えている

調査結果は比較的最近のものだが、僕は3年ぐらい前に、あるインタビュー記事を読んで文章の重要性を確信していた。それは、伊藤将雄さんというウェブサービス立ち上げの達人へのインタビューだったのだが、そのインタビュー記事の中で、彼はビジネスにおけるテキストの重要性が年々高まっている。と答えていたのだ。バナー広告よりも、良質なテキストによるコンテンツ、及び広告がお金になる。と予言していたのだ(検索してみたが、残念ながら該当するインタビュー記事を見つけることが出来なかった。)

確かに、テキストの重要性は増し続けている。
2000年頃から、神田昌典さんという方がビジネス・自己啓発分野でのある種のカリスマとなった(今はその座を勝間さんに譲っている)。その方はモノを売るためのセールスレターの書き方を標準化した人だ。そのノウハウを使うと、気味が悪いほど商品が売れる。しかも、脳が文章を理解する構造に従ってレターが書かれるので、「あーまた、神田メソッドだ。」と思っても、悔しいことに読んでしまう。というメソッドだ。慣れてない人だったらイチコロだろう。人を動かす文章のパターンを発見し、まとめたことは神田さんの大きな功績だった。

実は戦略コンサルティングの分野でも、文章の重要性は日々高まっている。もともとコンサルタントという仕事は、ロジカルに論点を整理し、文章を書くことに非常に長けた方々なのだが、最近はロジカルな文章だけでは、ロジカルでない人の心を動かすことができないことに気付いた。いや、実は昔から気づいていたのだが、組織のトップに対するコンサルティングが主流だった時代は、トップは大体人を動かす力に長けていたので、特にそこを意識する必要も無かったのだが、コンサルティング対象がトップからミドルに変化するにつれ、また、コンサルティングだけではなく、ある種の実行も手がけなければならなくなったので、ロジカルなだけではなく、物語をつかって伝える手法が発達した。

ビジネス書の世界も物語形式のものが増えている。もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらなどが良い例だろう。ドラッカーのマネジメントを読んだことがある人であれば、わかってもらえると思うが、非常に難解な本だ。自分の実務経験、マネジメント経験に照らし合わせ、考えながら読まなければ、十分理解できないはずだ。物語の良さを利用して、ドラッカーを伝えるというこの試みは新しいし、非常に価値がある。


■小説の書き方に、人生を学ぶ

まぁ、そんなことで僕は早くから文章の価値に着目し、あわよくばそれで食っていきたいなぁ。と思っていたのだが、早々に壁にぶつかった。しかし、この本を読んで、もう少し頑張れる気がしてきた。

この機会に印象に残った部分を少し書き留めておきたい。一流の技は、どこの分野、どこの世界でも通用するものだから。

提出されたパターンに対して、パターンどおりに反応する。文化や芸術の受け手、つまり消費者やお客様としては、それでいいんです。
しかし、作り手の側に立つつもりであれば、パターンを超えないといけない。ユニークでないといけない。変態になってください。
ものごとには、全てパターンがあり、セオリーがある。それを抑えた上で超えなければいけない。大体(ぼくも含めて)クリエイターという人種はパターンやセオリーを抑えずに、創造性を発揮しようとする。それで作り上げたものは、パターンやセオリーとして確立されたものの足元にも及ばず、それでいて世間はわかってくれない。と嘆く。まぁ、ゴーギャンやゴッホぐらいの天才であればともかく、現代に生きるクリエイターである我々は、できれば生きているうちに評価されたいよね。ピカソみたいに。

残念ながら、皆さんは二十歳を過ぎてしまった。私がこれからお話する作品をいま読んでも、もはや感動しないでしょう。(中略)私はこれからツルゲーネフの「はつ恋」の話をするんですが、私に言われてから読んでもね、もうダメなんですね。二十歳を過ぎてから「はつ恋」を読んでもなんの感動もないだろう。
同じようにですね、サルトルも二十歳を過ぎてから読んだら、いちばんおいしいところはわかんないと思います。
少し前にTwitter上で、小~中学生に現代文をやらせるのはムダ。という議論が出ていたのだけれど、ぼくもそれに対して明確な反論が出来なかった。確かに現代文のテストや読書感想文に関しては、意味はないかもしれないけれど、その時読まなければ味わえない感動。というものがあり、手遅れにならないうちに読んでおく。というのはいいことだと思うのだ。

僕に村上春樹を勧めてくれた知人がいる。その知人は春樹をほとんど全部呼んでいたのだが、海辺のカフカはあまり好きではない。といっていた。ところが僕が読んだところメチャクチャ面白かったので、そのことを伝え、知人に海辺のカフカを読み直させた。そうしたところ、「学生時代は面白さがわからなかったけれど、スゴく面白い!何故気づかなかったのだろう。」と言い出した。文学には読むべき時期があり、読むべき時期を逃すと後悔する。

「理論」や「方法論」を知っただけでは、まだ不足なのですね。例えばクラシック音楽で「フーガの技法」を学んで、バッハとそっくり同じような曲を作ったとしても誰も褒めてくれない。(中略)生きた小説、現代の読者にコミットした小説を書かないといけない。

三田誠広氏は多くのページを割いて、文学の理論・方法論について述べている。哲学・歴史、過去の文学について話した後で、時代に合わせて生きた小説を書かなければならない。と述べている。過去の名作も当時の時代背景を知らなければ読んでも心に響かない。原則となる理論・方法論を抑えた上で、現代にアレンジし直してはじめて価値が出る

「自分離れ」という言い方をしましたが、だからといって私は、「私小説」を書けと言っているのではないのです。書き手がプライベートな素材を使っているかどうかではなく、その作家が生涯をかけて追求しているテーマと、真正面から向き合っているかどうか。

自分自身の体験をみずみずしく描くことで、誰でも一冊は傑作を書けるという。しかし、それだけではダメで、自分自身が生涯をかけて追求しているテーマと、真正面に向きあって書け。と言っている。専門をつくれ。ということだろうか。僕だったら人と組織がテーマになるだろう。人と組織の間にある歪みや矛盾を、社会・経済の観点からきり、描いていく。そんな小説になるだろうか。


以上、小説の書き方について学ぶつもりだったけれど、人生に役立ちそうな気付きがいろいろ得られたので、せっかくなので共有しようと思い、まとめてみた。興味のある人は是非手にとって読んでみてもらいたい。


コンテキスト思考 論理を超える問題解決の技術コンテキスト思考 論理を超える問題解決の技術
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販売元:東洋経済新報社
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発売日:2009-12-04
おすすめ度:4.5
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