昨年、3週間ほど休暇をとってヨーロッパを1週してきた後輩から次のような質問を受けた。
fukuiさん、なんで日本の労働生産性は低いんですかねえ。スペイン人なんて、良い若いモンが昼間からシエスタだのなんだのいって、ビール飲んで遊んでいるんですよ!!これだけ頑張っていて生産性低い僕ら日本人って馬鹿なんじゃないですかね…。
このもっともな疑問に、今こそ答えるときが来たようだ。

「いや、シエスタしてる彼らは単に失業してるだけだし。失業者が多いと労働生産性は高くなるよ。」


労働生産性とは、就業者一人当たりの付加価値で計算される。実際、日本生産性本部が出している労働生産性の国際比較の2009年度版では次のように書かれ、我々の危機感を煽っている。

  • 2008年の日本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、68,219ドル(795万円/購買力平価換算)でOECD加盟30カ国中第20位、先進7カ国では最下位
  • 米国の労働生産性を100とすると日本は69
  • 日本の製造業の労働生産性水準(2007年)は80,400ドル(947万円)で、OECD加盟国でデータが得られた25カ国中第14位(図4)。ドイツに抜かれ、2006年の第13位から1つ順位を下げた。先進7カ国でみると米国、フランス、ドイツに次ぐ第4位となっている。
日本の労働生産性は、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた、高度経済成長期には世界1位だった。失われた20年を迎え、ゆっくりと生産性は低下していった。良く言われるのは、製造業の生産性は今でも世界のトップクラスだが、サービス業の生産性が極めて低い。というものだ。

しかし、僕はいいたい。労働生産性の国際比較を持ち出して危機感を煽るのなんて、そろそろやめようよ。ということを。もっと、中身を見る必要があると思うのだ。

規制産業の存在と硬直的な労働市場、イノベーション不足がよく生産性低下の原因として挙げられるが、それらは失業率の国際比較を見るとよくわかる。

次のグラフを見て頂きたい。

200911失業率

これはこちらのニュースリリースをもとに僕が作成したものだが、2009年11月時点の失業率を示したものだ。後輩が怒りを感じたスペインの失業率は19.4%に達し、フランスやアメリカは10%だ。それに比べて日本は、失業率が高くなったとはいえ、未だ5.2%の水準に留まっている。

200911若年層失業率

これが25歳以下の若年労働力になると更に問題は大きくなる。(日本は24歳以下の統計をもとに作成しているが、各国と同じ基準で比較したらもう少し失業率は低くなるだろう。)

スペインは若年労働力の44%が失業状態だ。福祉国家で有名なスウェーデンは26.5%。アメリカは19.1%だ。これに対して日本は8.4%という水準だ。

さて、労働生産性は、就業者一人当たりの付加価値で計算される、と書いた。失業者はカウントしない。

様々な規制に守られた業界。公共事業。ワークシェアリングの実施。硬直的な労働市場。こういった姿勢が日本の生産性の低さを生み出していることは事実だ。他に類を見ない少子高齢化も生産性の低下に拍車をかけていることだろう。

この生産性を犠牲にして、雇用を生み出す姿勢が吉と出るか、凶と出るか。


■これからの選択肢

さて、僕たちには3つの選択肢がある。
  1. 雇用を守りつつ、生産性も高める。
  2. 雇用を守り、生産性を低下させる。
  3. 雇用を捨て、生産性を高める。
欧州が取り組んだのは、3だ。結果がわかるのはこれからだ。若者による暴動が起きるかもしれない。日本は1を実現したいが、結果的に2になっている。ここからは1にもいけるし、3にもいける。1にいくためには連続的なイノベーションを実現する創造性の発揮が必要になる。それができるかどうかは政治と個々の努力に委ねられている。また、いったん3を経由して1に行くという道もあるかもしれない。

しかし、新卒神話だなんだと揶揄されながらも、若者の雇用を守っていることは評価したい。確実に訪れる少子高齢化の時代に、若者の雇用が阻害されることは国にとって大きなマイナスだからだ(同時にワーキングプアの問題も生み出しているかもしれないが)。世代間で闘争している暇なんてなく、相互に協力して、新しいイノベーションを産み出し、海外の需要に目を向け、稼いでいかなければならない。

今の日本は、労働生産性の低さに助けられている人も多い。
本来であれば、解雇されている人が勤めることができるのだから。
改めていうまでもないことだが、日本は様々な社会問題を抱え、豊かとは言い難いフェーズに入っている。

やることはもう明確だ。
産業規制を緩和し、雇用を流動化するのだ。まずはそれだ。それをいつやるか、その判断が大事だ。
国全体が沈む前にやるべきことは多い。