本日は勝間和代さんの本当の凄さについて書こうと思う。
極端な言い方をすれば、勝間和代さんは、KindleやiPadが出る前に日本の出版社を壊してしまった、のだと思う。

僕自身は、随分長い間、勝間さんの本のタイトル(年収10倍アップとか)に抵抗があって、長い間ずっと購入せずにいたのだが、読まず嫌いもフェアではないだろう。と思い、最近になって一通り読んだ。

読んでみたところ、勝間さんの本のメッセージには共感できたし、主張も合理的だと感じた。自己啓発本として、わかりやすく、変にスピリチュアルな所もなく好感が持てた。

さて、ここからが本題なのだが、ある出版社の方から次のような話を聞いた。
勝間さんの書籍が売れるのはありがたいことなんですが、正直我々としては微妙な気持ちなんです。勝間さんは編集担当の意見を受け入れず、自分の意見を通されますし、書籍のマーケティングに関しても、ブログやメディアを通じて自分でやってしまわれる。正直、僕らは印刷するだけですから、存在価値を問われています。いらないんですよ。
勝間さんが、編集泣かせという話は時々聞くが、本当かどうかはわからない。ただ、感覚としては編集担当の提案よりも「どうすれば売れるか」はよく理解されているのではないかと思う。

編集担当と著者は常に二人三脚で作品を作るわけではない。著者の力量は3つの要素に分解できる。
  1. 知名度
  2. 文章力
  3. コンテンツ
知名度がない場合は、出版社が積極的にマーケティングに取り組むことで、これをカバーする。
文章力がない場合は、その技能に特化したライターを手配する。
コンテンツがない場合は、企画力に優れた編集者がどんどんアイディアを出す。

このようにして、出版社は著者に足りない部分を補うことによって、その存在意義を発揮してきたわけだけれど、勝間さんはマーケティングを自ら手掛けることで、出版社の存在にNo!を投げかけた。

勝間さんは公認会計士、経営コンサルタント、投資銀行家として活躍されてきたので、文章力とコンテンツに関してはもとからお持ちだったろう。特定の分野で優れたビジネスパースンであれば、この二つは持っているケースが多い。

勝間さんが革命を起こしたのは、マーケティング分野だ。おそらく、編集が提案する、無難な売れ行きを狙った本の一歩、二歩上をいく大胆な戦略をとってきた。少し、勝間さんの著作を見ながら、その優れたマーケティングセンスを見てみよう。

勝間さんの処女作は、インディでいこう! だ。著者名はムギとなっている。これは、勝間さんにとっての実験的な作品だったが、ワーキングマザー向けインターネットサイトムギ畑を創設しており、一定の会員数もいたことから、ある程度売れる。という判断が出来たのだろう。ここで、勝間さんは出版に関して学ばれたと思われる。

次に出した書籍が勝間さんの名を天下に知らしめたものだと思うが、無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法という本だ。このタイトルは凄い。まともな感性のある人であれば、年収を10倍アップさせることなんて、無理なく出来るはずがない。という当たり前のことにすぐ気付き、「売らんかな」精神にあふれるこのタイトルに眉をひそめるはずだ。しかし、そこをあえて出した。物議は醸すだろうが、眉をひそめる人は捨て、あえてマスに対して訴える方法をとったのだ。学者などにはこの判断はできない。

力なき正義は無力、読まれない良書は無価値。と言わんばかりの決断だ。

結果、10万部を超えるベストセラーとなった。

その後、販売したのは、無理なく続けられる年収10倍アップ時間投資法という本だ。これはヒット作の続編を出すパターンで、一定の売れ行きが見込める鉄板の戦略だ。

次に出したのが、決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルールだ。これには顧客層を広げる。という狙いが隠されている。自己啓発には興味はないが、投資に興味がある。という層を取り込むための戦略だ。公認会計士資格を最年少で取得し、コンサル、金融という畑を歩んできた勝間さんが自らの経歴という強みを生かして勝負した一冊だ。

その後は、「7つのフレームワーク」や、「日本を変えよう」「断る力」という本、自己啓発や投資に関する本を何冊か書かれている。読者層を広げきったので、ある意味、自由に書きたいものを書いた時期でもある。(断る力は、おそらくだが、表紙を自分自身でプロデュースされたのではないだろうか。)

売れるようになり、固定客をつかんだ作家は、大体こういう「書きたいもの」を書いて、ゆっくりと過ごす。出版社からは先生と言われてご機嫌をとってもらえるようになるので、冒険はしない。しかし、勝間さんが本当にすごかったのはその次だ。

勝間さんが出したのは、結局、女はキレイが勝ちだ。これは、改めて読者層を広げる試みだろう。キレイをキーワードに、広いターゲットの、普遍的なニーズを満たすやり方だ。今までの読者層に安住することなく、さらに貪欲に読者を獲得するため、お金からキレイへとテーマの舵をきり、認知度を高めつつ、伝えたいメッセージを伝える。というやり方をとったのだ。リスクを取り、新たなチャレンジをするところに勝間さんの本当の強さと魅力がある。

勝間さんの著書は、年収10倍アップ時代から常に物議を醸す。最近、香山リカ氏や池田信夫氏とプロレスまがいの論争を行っているのも、注目を惹きつけ、主張を訴えるという意味では、論争相手とwin-winの関係にある。すべてはマーケティングの一環なのだ。(これはタブロイド紙などがよくやるマーケティングの手法だ。)

※余談だが、勝間さんの最終ゴールは、日本を変えることではないかと思う。その目的のために、地道にピースを積み上げているような気がする。今、あえて専門ではない経済領域に乗り出し批判を浴びながらも、経済評論家を名乗っているのは(そして、経済分野の勉強をされているのは)、チャレンジのあらわれではないかと思う。勝間さんの経済評論には賛否両論あるとおもうが(僕は否定派だ)、そのリスクをとりチャレンジする姿勢は素晴らしい。また、自分の名前をネットで検索して有意義な批判のご意見を受け止めているという話もあるが、これも権威主義になりがちな作家とは異なる革命家であることを感じさせる。


さて、解説が長くなってしまったが、著述家として成功された勝間さんが、これまでタブーであった、著者がマーケティングに取り組むのは当たり前。と言いきったことのインパクトは大きい。出版社にできることは全部自分で出来るんですよ。と言い切ったのも同然だからだ。

KindleやiPadの販売によって、電子書籍市場が脚光を浴びている。しかし、編集やマーケティング分野に出版社の主たる価値があるのであれば、これほど騒がれることもなかったのではないか。勝間和代さんが、事前に、出版社の聖域であった、編集力とマーケティング力にNo!を突きつけていたからこそ、電子書籍のインパクトが必要以上に大きく感じられているのだ。


特定の個人の影響力が大きくなったとき、読者の見識が真に問われる。勝間さんのこれからの動きに注目するとともに、自分自身の判断力も常に磨くようにしておきたい。