「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)
著者:酒井穣
販売元:光文社
発売日:2010-01-16
おすすめ度:5.0
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Twitter上で「良書」と紹介されてたいので、読んでみることにした。

僕は人と組織の問題にとても興味を持っているし、そういった仕事を長い間してきたのだけれど、人材育成に関する本の90%(感覚値)は読むに値しない本だと思っている。何故なら、個人の価値観を押し付けるものであったり、特定の環境でしか参考にならない主張が多いからだ。

そういった書籍に比べると、「日本で最も人材を育成する会社」のテキストは良く考えられて作られている。
  • まず、ターゲットが明確だ。具体的な社内教育を欲している人事にフォーカスしている。
  • 主観を廃し、客観的な立場で述べらている。
  • 育成対象の成長に合わせた方法を提案している。
  • 様々な文献をわかりやすく紹介しており、更に深く学習する際の参考になる。
値段も手頃なので、教育や採用に携わっている方には是非読んで頂きたいと思う。
ここでは、僕が共感した点と、なるほど!と思った点をひとつずつ紹介したい。
まず、共感できた部分。それは採用に関する、周囲の「評判」によるターゲット人材の選抜の重要性に関する一文だ。気になった箇所を引用したい。
採用の世界では、俗に「Aクラスの人材は、Aクラスの人材を連れてくる」が、「Bクラスの人材はCクラスの人材を連れてくる」と言います。自分の能力に不安を感じている人材は、自分よりも優れた能力に恵まれている(ように見える)人材が自分の部下や同僚になることを恐れるからです。
これは、凡庸のコストと言われる。人数合わせの採用を行う会社や、社内のエース級の人材(ベンチャーであれば社長)が採用に乗り出さないときに陥ってしまう問題ともいえる。

Twitter上でこの発言をしたときに、furukawa_yukiさんが、自分よりいい女を合コンに連れてくる女はそれだけでいい女ってことか、と反応してくれたが、言い得て妙だと思う。もちろん男性の場合は、自分よりもいい男を合コンに連れてくる男がいい男だ。

余談になるが、僕は学生時代ネットベンチャーでアルバイトをしていた。その頃はネットの知識もビジネスの知識も何もなく、全くもって役立たずな男だったのだが、会社に対して何か貢献できることはないか考えた結果、就職活動中に出会った「こいつは凄い!」という学生をバイト先に紹介する活動を積極的に行った。今でも、当時の社長はいい学生を連れてきてくれたことには感謝しているが、この一文を読んで、僕にも存在価値があったのだな。と救われた気がした。その他の仕事ではB~Cクラスだった僕が、優れた人材を見つけ、推薦するという一事において、Aクラス人材となりえた瞬間だった。

就職し、自社の採用活動を手掛け初めてからも常に念頭にあったのは、自分より優秀な人材を採用する。ということだ。そして、徐々に学生との接点がなくなり、思考が良くも悪くも大人になり、純粋に学生を見れなくなったときに、僕は採用担当を降りた。
教育ターゲット人材の選抜においては、過去の経験や実績、2-2で取り上げたパラメーターやコンピテンシーテスト結果などはもちろん参照するのですが、最も重視すべき項目は、その人材の「評判」だという点は、今一度協調しておきたいです。(中略)

個人の評判の形成とは、ずばり個人ブランドの形成であり、そのためには長期に及ぶかなりの配慮が必要なのにも関わらず、その崩壊は一瞬にして起こります。
著者は、教育する人材を選抜せよ、と述べる。全社員に対して一律に等しい内容の教育をすることは出来ないし、育成効果も低い。だから、人材を選定する必要がある。と述べているのだが、これはターゲット・マーケティングの発想であり、大変頷ける提案だ。

そして、育成ターゲット人材の選定に関しては、評判を重視せよ。と述べている。もちろんその後、評判は不完全なフィルターなので、その他のテスト等と良いところを組み合わせ、悪いところを補う形で使うことを提案されているが、これももっともなことだ。

これは、Googleで導入されているページランク型の評価制度の思想と共通するものがあるし、採用の際に(中途も新卒も)個人のバイオグラフィが重要になってきていることとあわせて考えても、こういった採用や育成の選抜方法が優れた企業ではあたりまえのこととなっていくのだろうな、と感じた。


最後に、なるほど!と関心した部分を紹介したい。

Will(やる気)×Skill(能力)で人材を大きく分類することは多いと思うが、著者はこの方法を更に一歩進める必要があると提案している。
  1. やる気も能力も高い人材に関しては、関与も指示もほとんど必要なく、権限を委譲するのが最も良い。
  2. スキルは高いのにやる気を失っているBクラス人材に関しては、そこそこの指示と高い関与が求められる。
  3. やる気はあるのにスキルはついてこないBクラス人材に関しては、多くの関与と指示が求められます。(最も手がかかるゾーン)
  4. スキルもやる気もないCクラス人材に関しては関与ではなく指示が大事。与えられた指示を確実にこなすことにより自信とやる気を取り戻す。と説いています。
これはシンプルですが、実に素晴らしい提案だ。人材が陥っている状況にあわせて、関与と指示のウェイトを変えて行くだけで、C→B(スキルなし)→B(やる気なし)→A という風に人材を育てることが出来るのだから。

多くのマネージャーは一通りのマネジメントしか習得していない。自分が経験したマネジメントスタイルか、自分が実現したいマネジメントスタイルのいずれかだ。

例えば僕は、Aクラス人材だけで構成された組織をジャズ的にマネジメントすることは得意だし、好きだが、それ以外のマネジメントを学ぶ努力は怠ってきたようにも思う。

また、いろいろなマネジャーや、指導法について学んできた結果、それぞれのやり方は、上記の4タイプの指導法のうちのどれかひとつにしか触れていないものが多いように感じる。(上司が鬼とならねば部下は動かじ、といった本は、Cクラス人材に対しての指導と言えるでしょうし、プロフェッショナル・ファームで実践されている指導法はジャズ型組織といっていいです。マイクロマネジメントをしたがる人はBクラス人材に対してのマネジメントといえます。これは人材の成長をストップさせてしまうことに繋がりかねません。)


評判に恥じぬ、良書でした。
人事、採用担当、および、経営者の方には簡単に読めて、オススメ出来る一冊です。
ご興味のある方は、是非。