京セラの稲森名誉会長がJALのCEOにあたることになりました。
事業再生というと、すごく難しいものという印象がありますが、再生のプロセス自体はシンプルです。事業再生という仕事に興味をお持ちの方もいらっしゃるでしょうし、企業の再建がどのようなプロセスで行われるか知っておくことで、ニュースも深く味わえるようになると思います。
そこで、僕自身の経験とターンアラウンドマネジャーとして活躍している知人から聞いた話をもとに、事業再生とはどのように行うのか、簡単にまとめてみたいと思います。
■事業再生の流れ
事業再生を請け負ったときにその責任者が取り組むことは、下記の4点です。(本来は、本当にその事業が将来的に再生見込みのある事業なのかどうか評価するプロセスがあるのですが、本エントリでは、評価後どのように再生に取組むか。ということを中心に述べます。)
それぞれのプロセスで何を行うか。実行するにあたって、何がハードルとなるのか、個別に説明していきたいと思います。
1.コストを削減する
V字回復という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。一旦業績が落ち込んで、それから急激に業績が回復するパターンです。事業再生は、コストの削減から行うのがセオリーです。何故なら、売上は(顧客も関係するため)コントロール出来ないが、コストはコントロールできるからです。
業績が悪化した企業の多くは、環境の変化や商品開発の遅れなどから、業績が悪化したにも関わらず、業績が好調だった頃と同じようなコスト構造になっているケースが大半です。だから、コントロール可能なコストから、見直しに着手するのです。
主要なコスト削減項目としては、
日産にゴーン氏が就任した時も、最初に取り組んだことはコスト削減です。ソニーが2007年に実現した、売上・純利益ともに過去最高益。というのも、大規模なリストラをベースに実現されたものです。(ソニーがその後、成長軌道に乗れたかどうかは、今後の動向を見る必要があります。以下の記事を参照ください)
ソニー、2007年通期決算は売上/純利益とも過去最高に
崖っ縁のソニー、立ちすくむエレクトロニクスの巨人
いずれにせよ、聖域として取り組まれなかった、コスト削減に取り組むことが事業を存続させるためたの第一歩となります。(社員の身としては、到底納得し難いと思いますが、再生請負人の思考としては、全員でゆっくりと沈むよりは、生き残れる人を少しでも救う。という発想をします。)
2.オペレーションを改善する
人件費を削減すると、一時的に人手が足りなくなります。少なくなった人手で問題なく回せるようであれば、本当に人員過多、ということになるのですが、多くのところは一時的な人手不足に陥るところが多いでしょう。今まで3人で回していたところを1人で回せるように、労働環境や承認の仕組みを整えるのが次の仕事になります。
例えば、某大手メーカーなどでは、社長の承認を得るまでに13段階の承認プロセスを踏まなければならない。というような冗談のような話がありますが、このプロセスを3段階に減らし、承認のスピードを早くし、不要なチェックを減らす。というのもひとつの取り組みです。
また、古くなってしまった、商品開発のプロセスや営業の手法を見直す。というのもこの分野の仕事になります。経営コンサルタントが得意とする領域です。
3.資金を調達する & 4.成長領域に資源を投入する
通常は1,1のプロセスを実行することで赤字幅を抑えることは出来ても(あるいは一時的に黒字を実現出来ても)、新たな成長を実現することは出来ません。そこで必要になってくるのが、資金を調達し、成長領域に資源(人、モノ、金)を投入する活動です。
資金調達は金融機関出身の人間が得意とする場合が多いのですが、成長領域の見極めは非常に難しく、事業家としての力が問われる分野です。成長領域の見極めを見誤ったことによって、事業再生が困難に直面するケースも多々あります。
何故、成長領域の見極めが難しいのか。
ひとつはテクノロジーの進化はコントロールできない。ということに起因します。ハイテクの会社の事業再生がハイリスク・ハイリターンになりがちなのが、テクノロジーの進化という博打の要素が入ってくるからです。
例えば、ゴーン氏は日産を再生するときに、成長分野を環境対応車と定めるのに遅れを取りました。(確か、新型フェアレディZを改革の旗頭としたはず…。)
プリウス、インサイトを追撃する 日産「猫プロジェクト」の正体
ゴーン氏がCOOに着任した時点で、重点投資部門をエコカーに投資していれば、本当の意味で華麗なるV字回復を成し遂げたのでは、という夢想を僕なんかはついしてしまいます。しかし、ゴーン氏ほどの経営者でも読みきることが出来ないほど、成長分野を見ぬくことは難しいのです。(成長分野を見極めることの重要性は過去エントリ:就職せずに起業して、成功するために必要なこと その3 でも触れていますので、よろしければご覧ください。)
一方、ローテクの企業に関しては、事業構造全体を変えてしまうようなテクノロジーの進化というのはまず、おこらないものなので、地道に商品開発や営業構造の改革に取組むことで、徐々に業績を上向けることは可能です。時間はかかりますが。
稲森氏は、ウィルコムの事業拡大に関しては苦労しています。
ピッチのウィルコムが大ピンチ 社長更迭も前途多難
ただ、JALの再建は(リスクこそ高いものの)実現する可能性も高いと思います。何故なら、大きなテクノロジーの進化が訪れる可能性が低いからです。個人的には稲森氏の手腕及び送り込まれる人材を大変注目してみています。
本日は、事業再生の基本的な流れに関して触れました。この4つのプロセスは書くこと自体は簡単なのですが、一人で実行しようとすると大変難しいです。
故に、大抵の事業再生は、2人から数人の異なる能力を持ったメンバーが送り込まれ、実行されます。明日は、事業再生に携わるメンバーにはどういう能力が必要とされるのか。どういうキャリアを歩んできた人が多いのか、(僕自身の主観をもとに)書いてみようと思います。
天才数学者はこう賭ける―誰も語らなかった株とギャンブルの話
著者:ウィリアム パウンドストーン
販売元:青土社
発売日:2006-11
おすすめ度:
クチコミを見る
事業再生というと、すごく難しいものという印象がありますが、再生のプロセス自体はシンプルです。事業再生という仕事に興味をお持ちの方もいらっしゃるでしょうし、企業の再建がどのようなプロセスで行われるか知っておくことで、ニュースも深く味わえるようになると思います。
そこで、僕自身の経験とターンアラウンドマネジャーとして活躍している知人から聞いた話をもとに、事業再生とはどのように行うのか、簡単にまとめてみたいと思います。
■事業再生の流れ
事業再生を請け負ったときにその責任者が取り組むことは、下記の4点です。(本来は、本当にその事業が将来的に再生見込みのある事業なのかどうか評価するプロセスがあるのですが、本エントリでは、評価後どのように再生に取組むか。ということを中心に述べます。)
- コストを削減する
- オペレーションを改善する
- (追加で)資金を調達する
- 成長領域に資源を投入する
それぞれのプロセスで何を行うか。実行するにあたって、何がハードルとなるのか、個別に説明していきたいと思います。
1.コストを削減する
V字回復という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。一旦業績が落ち込んで、それから急激に業績が回復するパターンです。事業再生は、コストの削減から行うのがセオリーです。何故なら、売上は(顧客も関係するため)コントロール出来ないが、コストはコントロールできるからです。
業績が悪化した企業の多くは、環境の変化や商品開発の遅れなどから、業績が悪化したにも関わらず、業績が好調だった頃と同じようなコスト構造になっているケースが大半です。だから、コントロール可能なコストから、見直しに着手するのです。
主要なコスト削減項目としては、
- 取引業者の見直し
- 不良資産の売却、閉鎖
- 人件費の削減
日産にゴーン氏が就任した時も、最初に取り組んだことはコスト削減です。ソニーが2007年に実現した、売上・純利益ともに過去最高益。というのも、大規模なリストラをベースに実現されたものです。(ソニーがその後、成長軌道に乗れたかどうかは、今後の動向を見る必要があります。以下の記事を参照ください)
ソニー、2007年通期決算は売上/純利益とも過去最高に
崖っ縁のソニー、立ちすくむエレクトロニクスの巨人
いずれにせよ、聖域として取り組まれなかった、コスト削減に取り組むことが事業を存続させるためたの第一歩となります。(社員の身としては、到底納得し難いと思いますが、再生請負人の思考としては、全員でゆっくりと沈むよりは、生き残れる人を少しでも救う。という発想をします。)
2.オペレーションを改善する
人件費を削減すると、一時的に人手が足りなくなります。少なくなった人手で問題なく回せるようであれば、本当に人員過多、ということになるのですが、多くのところは一時的な人手不足に陥るところが多いでしょう。今まで3人で回していたところを1人で回せるように、労働環境や承認の仕組みを整えるのが次の仕事になります。
例えば、某大手メーカーなどでは、社長の承認を得るまでに13段階の承認プロセスを踏まなければならない。というような冗談のような話がありますが、このプロセスを3段階に減らし、承認のスピードを早くし、不要なチェックを減らす。というのもひとつの取り組みです。
また、古くなってしまった、商品開発のプロセスや営業の手法を見直す。というのもこの分野の仕事になります。経営コンサルタントが得意とする領域です。
#余談ですが、トップコンサルタントであり、ミスミグループの会長でもある三枝匡氏が、ご自身の事業再生の経験を踏まえて書かれた「戦略プロフェッショナル」「経営パワーの危機」「V字回復の経営」は事業再生の現場を具体的に書いた名著です。ただ、残念なことに戦略コンサルタントとしての経験をもとに書かれたからか、当時は現在のように経済や経営の環境が最悪とまでいかない状況だったからか、オペレーション改善と成長領域への資源投入に絞って書かれています。(コスト削減に関しては深く触れず、資金調達に関してはスポンサーがいるという設定。)実際に事業再生を行うには、コスト削減も資金調達も必須となることがほとんどです。2は非常に重要なプロセスですが、プロセス・コンサルタントやマーケティング・コンサルタント、あるいはモチベーション・コンサルタントといった特定分野のコンサルタントが述べるように、この分野の改善を行うだけで、業績が向上し成長軌道に乗るということは残念ながら、まずありません。
3.資金を調達する & 4.成長領域に資源を投入する
通常は1,1のプロセスを実行することで赤字幅を抑えることは出来ても(あるいは一時的に黒字を実現出来ても)、新たな成長を実現することは出来ません。そこで必要になってくるのが、資金を調達し、成長領域に資源(人、モノ、金)を投入する活動です。
資金調達は金融機関出身の人間が得意とする場合が多いのですが、成長領域の見極めは非常に難しく、事業家としての力が問われる分野です。成長領域の見極めを見誤ったことによって、事業再生が困難に直面するケースも多々あります。
何故、成長領域の見極めが難しいのか。
ひとつはテクノロジーの進化はコントロールできない。ということに起因します。ハイテクの会社の事業再生がハイリスク・ハイリターンになりがちなのが、テクノロジーの進化という博打の要素が入ってくるからです。
例えば、ゴーン氏は日産を再生するときに、成長分野を環境対応車と定めるのに遅れを取りました。(確か、新型フェアレディZを改革の旗頭としたはず…。)
プリウス、インサイトを追撃する 日産「猫プロジェクト」の正体
ゴーン氏がCOOに着任した時点で、重点投資部門をエコカーに投資していれば、本当の意味で華麗なるV字回復を成し遂げたのでは、という夢想を僕なんかはついしてしまいます。しかし、ゴーン氏ほどの経営者でも読みきることが出来ないほど、成長分野を見ぬくことは難しいのです。(成長分野を見極めることの重要性は過去エントリ:就職せずに起業して、成功するために必要なこと その3 でも触れていますので、よろしければご覧ください。)
一方、ローテクの企業に関しては、事業構造全体を変えてしまうようなテクノロジーの進化というのはまず、おこらないものなので、地道に商品開発や営業構造の改革に取組むことで、徐々に業績を上向けることは可能です。時間はかかりますが。
稲森氏は、ウィルコムの事業拡大に関しては苦労しています。
ピッチのウィルコムが大ピンチ 社長更迭も前途多難
ただ、JALの再建は(リスクこそ高いものの)実現する可能性も高いと思います。何故なら、大きなテクノロジーの進化が訪れる可能性が低いからです。個人的には稲森氏の手腕及び送り込まれる人材を大変注目してみています。
#賢明な投資家と言われるバフェット氏が、テクノロジー関連企業に投資せず、30年後が予測出来る企業のみに投資するのは、上記の理由が大きいからだと思います。テクノロジーの変化という読みきれないリスクは可能な限り排除するという投資方針なのでしょう。
#一方、「天才数学者はこう賭ける」で取り上げられた、天才数学者クロード・シャノンが抜群の投資成績を収めた秘密は、成長するテクノロジー企業の見極め力が極めて高く、リスクの少ないごく初期段階に投資することが出来ていた。という点が挙げられると思います。投資スタイルも運用金額も違うので、バフェット氏と比べること自体が意味のないことではあるのですが。
本日は、事業再生の基本的な流れに関して触れました。この4つのプロセスは書くこと自体は簡単なのですが、一人で実行しようとすると大変難しいです。
故に、大抵の事業再生は、2人から数人の異なる能力を持ったメンバーが送り込まれ、実行されます。明日は、事業再生に携わるメンバーにはどういう能力が必要とされるのか。どういうキャリアを歩んできた人が多いのか、(僕自身の主観をもとに)書いてみようと思います。
天才数学者はこう賭ける―誰も語らなかった株とギャンブルの話著者:ウィリアム パウンドストーン
販売元:青土社
発売日:2006-11
おすすめ度:
クチコミを見る














Comment
コメントする