昨日に引き続き「雇用流動化」について考えてみる。
僕は「雇用の流動化」は必須と考えていて、もはや疑念の余地もない。

ただ、ネット上には「雇用の流動化」に対する多数の反対意見が述べられている。本エントリでは、
  • これらの意見が何故でてくるのか。
  • 何故、これら個々の問題を「雇用の流動化」と一緒に考えてはいけないのか
を、考えてみることとしたい。

「雇用の流動化」というと必ず出てくる反対意見がある。
大きく分類すると下記の4点だ。

1)需要喚起が先である(≒雇用を守れ)という意見
    論拠a)非正規雇用が増えている
    論拠b)長期雇用が成長率を促進する

2)格差拡大の問題
    論拠a)OECDの貧困率調査など
    論拠b)利益が出ても、労働分配率は高まらない(行き過ぎた資本主義)

3)労働者の権利保護の視点
    論拠)不当解雇の問題(派遣切り/セクハラ/パワハラ)

さて、これらの主張の論拠が何故「雇用の流動化」に対する反論として適切でないか、僕の見解を述べてみたい。


1)需要喚起が先である(≒雇用を守れ)という意見

論拠aに関しては、前回のエントリにて誤りを正した。非正規雇用が増えているのは事実だが、正規雇用は過去20年間にわたり、多少の増減はあれど変化はない。経済成長していないにも関わらず、働きたい人は増え続けたので、需給ギャップの調整手段として非正規雇用というスタイルが増えたに過ぎない。

また、長期雇用が成長率を促進する。という考えも、根拠のない精神論だ。これを提唱する人は高度成長期という特殊な環境下での本企業と、アメリカのエクセレントカンパニを数社取り上げ、長期雇用が成長率を高めると説いている。製造業で日本に一敗地にまみれ、IT産業で復活したアメリカは雇用の流動化が進んでいた。経営という視点から見ると、企業の成長に最も大きな影響を与えるのは産業構造の変化であり、産業構造の変化にスピーディーに対応するには、雇用の流動化を促進した方が望ましい。(産業構造の変化が経営に重大な影響を及ぼす根拠としては、クレイトン・クリステンセンがイノベーションのジレンマで述べている。最も時代ごとの花形産業を見るだけでもわかるけれど。)

こうして見ていくと、一部に存在する「不況は企業を鍛えない(イノベーションは豊かな企業で生じる)」という意見も暴論に過ぎないことがわかる。イノベーションが豊かな企業でしか起きないのであれば、イノベーションによって成長してきた数多くのベンチャー企業はどうなるのだろう?

それと、大学という機関を取り上げ、「短期雇用で良い教育ができるか」と述べる人がいるが、これは大学の成長戦略によって取る方針は違ってくるだろう。研究重視であれば、長期雇用がいいだろうし、教えることを重視するのであれば、短期雇用で学生からの評価で判断しても構わないかもしれない。(ビジネススクールなどは短期評するところも多い。)、雇用の流動化を促進することで、若手の優秀な学者を見つけ育てることに優れた大学が出たり、ブランド教授ばかり揃えたり。という感じで多様性が促進されるのではないだろうか。


2)格差拡大の問題


これも前回のエントリで説明をした。日本は世界的に見てもまれなほど貧困率が少ない国で、経済のグローバル化が進む中、世界標準に向けて貧困率の拡大が緩やかにすすむのは自然の流れと考える。

利益が出ても労働分配率は高まらない。という主張に関しては一考の余地がある。たしかに、財務体質を強く気にする企業の場合、利益があがっても、労働者に配分されにくいこともあるだろう。特にここ10年は資本主義の名のもとに、コストカットにより利益をあげ、その利益が投資家(海外の投資家も多かったことだろう)に流れた側面もあると思われる。

短期的なマネーゲームに翻弄される企業が多くなることは望ましくないし、何らかのセーフティネットも必要かもしれない。しかしそのセーフティネットが「正規雇用の保護」ということであれば、正規社員と非正規社員の格差は広がるばかり(切られるのは非正規雇用の社員ばかり)だし、全ての社員を正規雇用し、保護せよ。という規則にすると産業構造の変化に合わせた人材の移動が促されないので、国中の企業が全部ひっくるめて競争力を失うことにもなりかねない。


3)労働者の権利保護の視点


経済学者の意見に対して、法律家が反論する場合、この意見が出てくることが多いように感じる。実際に、不当解雇は数多くある。大手の派遣会社であったグッドウィルやフルキャストには違法行為があり行政処分を受けている。また派遣会社に限らず、正規雇用の方でも日常的にセクハラやパワハラのある会社もある。他に働く場所がないから泣き寝入りするという話もきくが、これも一方の視点から見ると正規雇用があまりに保護されているので、他の選択肢を選ぶハードルを上げてしまっているとも言える。

また、「法律に違反している企業がある」という事実と、「正規雇用者を増やせ(=雇用の流動化は勧めるべきでない)」という意見は本来異なる次元に属する議論だ。法律違反している企業は罰せられなければならない。またそういう企業がでないようにグレーな領域をなくしていかねばならない。それは当然のことだ。

しかし、グレーな領域をなくす方法は、正規雇用者の解雇規制を守ることだけなのだろうか?違うだろう。そんなことをしたら、経済はさらに停滞し、失業者がますますあふれることになる。

正社員の解雇規制を撤廃(=雇用の流動化)し、同じルールのもと能力によって採用・評価される状態をつくることが大事ではないだろうか。

日本全体で雇用者は5000万人強。そのうち34%にあたる1700万人が非正規雇用で、さらにその1/10、つまり雇用者全体の0.3%が派遣切りにあったとされる。大きな問題だし、社会問題というのは人数の大小で語られるべきものでもない。法律的に問題があったところは罰せられなければいけないし、今後このようなことが発生しないように制度を整えていかねばならない。ただし、その問題は「正規雇用者の解雇規制を守れ」という論には繋がらない。

根本的には、日本全体が不況になったと言う点が一番の問題だ。(失業率の増加を見ると、非正規雇用ばかりでなく、正規雇用されている方の失業率も増加していることがわかる。)

まず考えるべきは、日本経済が持続的な成長を遂げるためには、中長期的に何に取り組むべきか、という点だと思う。

まず、パンをくれ。という意見もわかるが、財政政策等を通じ、それはそれでやればいいと思う。
短期的な保証と、中長期的な構造改革・成長戦略を一緒にして語ってはいけない。雇用の流動化は中長期的な構造改革であり、成長戦略だ。


さて、乱暴な意見があるかもしれない。雇用の流動化は必要として、就職氷河期世代に派遣として働き始め、正社員として雇用される機会が年を負うごとに少なくなっていく僕のようなアラサー世代はどう生きていくべきか。それについて次回は考えてみようと思う。


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著者:クレイトン・クリステンセン
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