今では、どの書店にいっても新刊が平積みにされるメジャー作家となった、伊坂幸太郎。
そのデビュー作が『オーデュボンの祈り』だ。
この作品には初期の伊坂作品のすべてが詰まっている。
現実と幻想の挟間にいるかのような、不思議な登場人物。
数多く張り巡らされた伏線がひとつの結論につながる、ジグゾーパズルのような構成。
ウィットに富んだ会話。豊かな自然の描写。
オーデュボンの祈りのあらすじはこうだ。
コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか 言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去ら れて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか? (文庫裏表紙より)
タイトルの由来にもなっている、ジョン・ジェームズ・オーデュボンは アメリカの画家であり、鳥類研究者だ。彼はその日記の中で、リョコウバトについて触れている。リョコウバトは18世紀には北アメリカに50億羽生息してい たといわれ、当時もっとも数の多かった高等生物でもある。オーデュボンは3日間にわたり、「渡り」を行うリョコウバトの大群が3日にわたって空を埋め尽く した。と書いている。それだけ多かったリョコウバトも乱獲と繁殖力の弱さから20世紀初頭には絶滅する。人間のエゴが生み出した代表的な種の絶滅の例だ。
主人公の伊藤は島での生活を通じ、SEとしての生活で失っていたものを取り戻し始める。
リョコウバトに限らず、生きていく中で僕たちはいろいろなものを失う。
現実から離れたいという願望を一度くらいもったことがある人も多いだろう。
伊藤はそんな僕たちの分身でもある。
そんなとき、現実から、ほんの半歩だけ離れてみる。
そして、生きていることの素晴らしさを確認する。
「オーデュボンの祈り」はそんなちょっとした願望を満たしてくれる小説だ。
(オススメ)
– 現実から半歩離れた世界での冒険に酔いしれたい人にとって
– はじめて伊坂作品を読むかたに