暗号解読〈上〉 (新潮文庫)今さらではありますが、サイモン・シンの暗号解読を読みました。
フェルマーの最終定理の後に書かれた作品で、宇宙創成よりは前の作品です。

これで一応、文庫化されているサイモン・シンの作品は全て読破したことになります。
この作品もサイモン・シンの他の作品同様、非常に優れた作品です。

暗号の構造を素人にも理解できるようにわかりやすく解説しながら、暗号にまつわる様々な歴史の悲喜劇を紹介しています。

個人的に印象的なエピソードは、第二次世界大戦中にドイツ軍が採用した、世界最高の暗号機エニグマにまつわるエピソードです。

エニグマの暗号を破るきっかけとなった人物は3人います。

一人目がドイツに恨みを持つドイツ人、ハンス=ティロ・シュミット。
二人目がポーランドの数学者、マリアン・レイェフスキ
三人目が現代計算機科学の父と言われるイギリス人、アラン・チューリング

圧倒的な暗号性能によって解読不可能と言われたエニグマ。
例え暗号作成・解読機であるエニグマ本体が敵(連合国側)の手にわたっても暗号の解読は不可能と言われていました。

ハンス=ティロ・シュミットはそのエニグマの構造に関する情報をフランスに売り渡した男です。

フランスの諜報部はそれでもなお、エニグマに関してはお手上げで、ハンスの情報を同盟国であるポーランドに譲ります。ポーランドは戦争の危険をもっとも感じていた国であり、当時世界最高の暗号解読班を持っていたフランス・イギリスでさえ手を挙げたエニグマの暗号に粘り強く取り組み、ついにレイェフスキはエニグマの暗号解読の糸口を見つけます。

ポーランドは陥落寸前に、それまでにレイェフスキが発見してきた研究成果をイギリスとフランスに譲り渡します。

そして、レイェフスキの仕事を引き継ぎ、発展させ、ついに暗号を破るのがイギリスの暗号解読班であり、その中心となったのがアラン=チューリングです。

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エニグマの暗号を解読できなければ、第二次世界大戦の結果は今と異なったものになったかもしれません。

当時のイギリスはドイツの潜水艦であるUボートに対抗するすべを持たず、イギリス本国への物資輸送がままならない状態でした。長期間にわたり海上封鎖が続けられた場合、イギリスはドイツと講話するしかなかったかもしれません。

暗号の解読が可能になったために、連合国側はUボートの位置を知ることができるようになり、またドイツ陸軍の集結地点を把握することができるようになりました。

敵の作戦が把握できていれば、対抗するための準備をすることは容易くなります。
空で陸で、海で、イギリス軍は手痛い打撃をドイツに与え、戦局を覆します。

暗号の解読が歴史を変えた代表的な例といっていいかもしれません。

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歴史の背後にある、壮大な頭脳の勝負。
かすかな手がかりから暗号を解読する天才たちの偉業がわかりやすくまとめられた素晴らしい一冊だと思います。