fukuidayo

人と組織と、fukui's blog

32歳にして会社を辞め、小説家になることを志し、食うために起業したある男のblogです。

今週の一冊

4

俺はまだ、強いのか?

みなさんコンニチハ!
「大切なことはみんな、マンガが教えてくれた」の著者(※)fukuiと申します。

本日ご紹介するのは、5月に発売されたバガボンド最新刊。

バガボンド(33) (モーニングKC)バガボンド(33) (モーニングKC)
著者:井上 雄彦
販売元:講談社
発売日:2010-05-27
おすすめ度:4.5
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年内に完結するという噂のバガボンドですが、井上雄彦の筆は完結を前に鈍るどころか、ますます冴え渡っています。この漢(おとこ)、やはり神というしかない‥。

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さて、個人的にバガボンドには非常に深い思い入れがあります。主人公の武蔵の成長とともに、僕も心の成長を遂げてきたといってもいいくらいです。ちと今日はその思い出をまとめてみたいと思います。

自分でも顔から火が出るくらい恥ずかしいのですが、かつての僕はいろいろなものと闘っていたように思います。ちょうど大学時代は今と同じぐらいの非常に厳しい就職氷河期でしたし、ネットバブルのただ中でもありました。

その頃は、ビジネスで成功したい!皆を見返してやりたい!という思いで頭が一杯で、それこそ脳の8割ぐらいはそんなことばかり考えていたように思います。人の痛みとか、世間に対する興味・関心よりも、とにかく自分の成功。そんな感じです。まさに、天下無双を志す武蔵のような気持ちでした。

その気持ちが変化してきたのが、社会人6年目ぐらいの時だったように思います。体を壊すぐらい働いて、周囲の人にも迷惑をかけて、得たものは、残ったものは何か。ふと、そういうことを考えるようになったのです。

自分はいつも何かと戦っている。何かを敵に見たて、そこに対して怒りをぶつけることで、自分自身の力に変える。見えない敵と必要もないのに戦っている自分がいる。そんな風に思うようになりました。

koheyそんな時に、以前見たときはなんとも思わなかったバガボンドの台詞が目に飛び込んできたのです。それは、辻風黄平(宍戸梅軒)が武蔵との戦いに敗れた後に吐く言葉。

「殺し合いの螺旋から、俺は降りる」

いろいろな解釈の仕方があると思うのですが、剣のみに生き、強さを追い求めてきた武蔵達、剣客の生き方は、現代に置き換えていうと、権力なり収入なりを追い求める生き方と似たものがあるのではないかな。とその時思ったのです。

もちろん、それは悪いことではありません。まだ見ぬ高みを目指し、己を磨く。それ自体は素晴らしいことのはずです。

しかし、見えていた位置にたどり着いてみると更に上が見えてしまう。終わりのない、螺旋。これは、何なのか。

そんな中、小次郎と武蔵に破れた黄平。自分を信頼する小さな家族が出来、家族とともに生きることを決意したことを匂わせる黄平の言葉からは、敗北したにも関わらず、今までとは異なる形の勇気と神々しさを感じます。


世界と闘い、人との差を創りだしていくことを幸せと感じていた自分に、「自分にとっての幸せとは、本当のところ何なのか」を問い直すきっかけを与えてくれた一言です。

僕はこのバガボンドで提示された問いがきっかけとなり、一度生まれ育った地元である富山に帰り、限りある時間を家族とともに過ごすことにしました。

さて、辻風黄平は小さな家族が出来たこと、そして戦いに敗れたことをきっかけに、武蔵よりも一足早く「殺し合いの螺旋」から降りることになります。しかし、武蔵は随分長い間、天下無双という亡霊と戦い、その先にあるものを探し続けます。そしてついに天下無双というものが単なる幻に過ぎないことに気付きます。

私は、これですっかり武蔵が心の成長を遂げ、この精神状態のままエンディングに向かうと思い込んでいたのですが、

まさか、その先に更なる心の成長があったとは!!
(※以下、ネタバレ含みます。)

musashi

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4

【書評】完全教祖マニュアル を読んで

完全教祖マニュアル (ちくま新書)完全教祖マニュアル (ちくま新書)
著者:架神 恭介
販売元:筑摩書房
発売日:2009-11
おすすめ度:4.0
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TwitterのTL上で話題になっていたので、読んでみました。思いのほかいい本だったと思います。
本の魅力は、僕が言葉を尽くして説明するよりも、書籍内の見出しを見て頂くのが一番よく伝わると思いますので、いくつか興味を惹いたタイトルを列挙します。
  • 教祖はこんなに素晴らしい!
  • 既存の宗教を焼きなおそう
  • 大衆に迎合しよう
  • 現世利益をうたおう
  • 偶像崇拝しよう
  • 弱っている人を探そう
  • 金持ちを狙おう
  • 他教をこきおろそう
  • 甘い汁を吸おう
  • 奇跡をおこそう
こんな感じ。これでもほんの一部です。

そう、完全教祖マニュアルは教祖になるための方法と利益をマーケティング視点で合理的かつ冷静に、面白く書いた本なのです。

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26

「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト を読んで


「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)
著者:酒井穣
販売元:光文社
発売日:2010-01-16
おすすめ度:5.0
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Twitter上で「良書」と紹介されてたいので、読んでみることにした。

僕は人と組織の問題にとても興味を持っているし、そういった仕事を長い間してきたのだけれど、人材育成に関する本の90%(感覚値)は読むに値しない本だと思っている。何故なら、個人の価値観を押し付けるものであったり、特定の環境でしか参考にならない主張が多いからだ。

そういった書籍に比べると、「日本で最も人材を育成する会社」のテキストは良く考えられて作られている。
  • まず、ターゲットが明確だ。具体的な社内教育を欲している人事にフォーカスしている。
  • 主観を廃し、客観的な立場で述べらている。
  • 育成対象の成長に合わせた方法を提案している。
  • 様々な文献をわかりやすく紹介しており、更に深く学習する際の参考になる。
値段も手頃なので、教育や採用に携わっている方には是非読んで頂きたいと思う。
ここでは、僕が共感した点と、なるほど!と思った点をひとつずつ紹介したい。
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26

今週の一冊) 『海辺のカフカ』 村上春樹 -11冊目

kafuka
村上春樹の小説を紹介するとしたら、最初の一冊は何がいいだろう?
最初の一冊はすごく大事なんだ。
つまらない。と思われてしまったら、二冊目を手に取ってもらうのはずいぶん後になるだろうから。

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僕が春樹作品とはじめて出会ったのは、中学3年の頃だったろうか。
とにかく、現国の問題集の題材が「ノルウェイの森」の一部を読んだことだけは覚えている。

正直言って一部だったし、何が面白いのか、何が言いたいのか全く分からなかった。村上春樹を理解するには若すぎたし、当時の僕を取り巻く世界は今よりもずっとシンプルだった。

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19

今週の一冊) 『ポトスライムの舟』 津村記久子 -10冊目

potos小説家になるためのトレーニングの一環として、少しテーマを決めて小説を読むことにしてみました。
とりあえず、過去10年分の芥川賞・直木賞の受賞作を全て読み込んでみよう。と思い、まず最初に手に取ったのが、本作『ポトスライムの舟』。

2008年下半期の芥川賞受賞作で、地下鉄の中吊り広告で紹介文を見かけたとき、「これは読まねば!」と思ったものの、ずるずる1年が立ってしまったのでこれを機会に読んでみることに。

中吊りでの紹介文はどんなだったかもう記憶もおぼろげなのですが、「工場で働く30間近の女性の日常」を描いた小説だということだけは覚えています。リーマンショック前後の受賞作だったので、妙に鮮明に記憶に残っています。

主人公のナガセは工場で働く29歳。
新卒で入社した会社から激しいモラルハラスメントを受け1年で退社。
勤めるのが怖い時期が暫く続き、今もそれは完全には直っていない。
周囲に支えられ、現在の工場に仕事を見つけ働き初めてからもう4年がたつ。
そんなとき、工場の休憩室に「世界一周ピースボートの旅」のポスターが貼られる。
渡航費用は163万円。それは、ナガセの年収とほぼ同じ金額だった…。

導入はこんな感じなのですが、本当に日常を丁寧に、職場や女性の心の移り変わりを本当に丁寧に描いています。続きを読む »
27

今週の一冊) 『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎 -9冊目

isaka今では、どの書店にいっても新刊が平積みにされるメジャー作家となった、伊坂幸太郎。

そのデビュー作が『オーデュボンの祈り』だ。

この作品には初期の伊坂作品のすべてが詰まっている。
現実と幻想の挟間にいるかのような、不思議な登場人物。
数多く張り巡らされた伏線がひとつの結論につながる、ジグゾーパズルのような構成。
ウィットに富んだ会話。豊かな自然の描写。

オーデュボンの祈りのあらすじはこうだ。

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか 言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去ら れて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか? (文庫裏表紙より)
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18

今週の一冊 『百億の昼と千億の夜』 光瀬 龍 -8冊目

100_1000

宇宙や生命のことを考えると、誰もが心にわずかなざわめきを感じる。
僕たちはその不思議に魅せられ、答えのない問いをしては、宇宙や生命の神秘に畏敬の念を覚える。

 

 

 

・人体は一つの小宇宙のようだ。人体は六十兆個の細胞からなり、死と誕生を繰り返しながら、いつしかその生を終える。時にコントロール不可能なまでに増殖する細胞が現れ、これは癌として認識される。

・地球はひとつの生命体のようだ。雷は脳波を、マグマは血液を、水は酵素をあらわし、それらの恵みで生きている生物は、人体の中に生きる様々な微生 物のようだ。さて、無制限に増殖し、地球を汚染する人類は、地球を人体にたとえるとどのような存在として認識されるのだろうか。

・コンピューターが果てしなく進歩したらどうなるのだろうか。今は簡単なシミュレーションを行えるだけだが、たとえばハードディスク内の様々なデー タが自律的な意思を持ち、進化するようになったらそれらは一つの生命と呼べるのではないだろうか。われわれの住むこの宇宙ですら、より高次の存在が戯れの 中に作った箱庭のような存在でないと否定することはできるのだろうか。

・宇宙はビッグバンから始まった。初期の宇宙には水素のみがあった。超高圧の中で水素はヘリウムを生み出し、初期の星たちが生まれた。そういった星 星の中心部は超高圧の空間で、そこで、さまざまな元素が生み出された。やがて星はその生命を終え、宇宙にエネルギーを拡散した。我々が住む地球は、星の誕 生と死を繰り返し3世代目の存在である。では、ビッグバンの外には何があったのだろうか。

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15

今週の一冊 『希望の国のエクソダス』 村上 龍 -7冊目

kibou「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。」

これは、物語のキーマン、中学生のポンちゃんが、国会中継を通じ、世界に対して発するメッセージだ。

 『希望の国のエクソダス』は社会に溢れる閉塞感の中で、オトナのつくった秩序やルールに納得できない中学生たちが、インターネットと法律、金融の知識を活かして、日本という国を脱出(エクソダス)し、自分たちの理想の国をつくる。という話。

読んでみて強烈に感じたのが、村上龍の時代を読む感性の鋭さだ。
2000年に出版された本だが、今でも古さを感じさせない。

物語は、日本を捨てパキスタン北西部、アフガニスタンとの国境境でパシュトゥーン(戦闘的な部族民のひとつ)として生きる10代の少年がCNNに取材されるところから始まる。

村上龍は、執筆当時流行していたグローバリゼーション、アメリカ的な金融・経営システムとは異なる価値観を描くことで、価値観と多様性の理解の必要性を説きたかった。と語っているが、彼が感じていた問題が現実化する出来事が出版から1年後に起きる。言わずと知れた、9.11 同時多発テロだ。

この本を読むと、テクノロジーは進歩したかもしれないが、日本という国は2000年から何も進歩していないということがわかる。経済・雇用・少子化・外交といった日本が抱える様々な問題は悪くなりこそすれ、良くはなっていない。私達にも、それぞれが出来る方法で、希望の国をつくる努力が求められているのかもしれない。

(オススメ)
-- 自分にとっての希望を考えたいオトナに。まだ諦めていない全ての人に。
8

今週の一冊 『深海のYrr』 フランク・シェッツィング -6冊目

深海のYrr 〈上〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)深海のYrr 〈上〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)
著者:フランク・シェッツィング
販売元:早川書房
発売日:2008-04-23
おすすめ度:3.5
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2004年ドイツで出版され、200万部を超える大ベストセラーとなった本作。専門家への取材や現地の調査に4年の歳月をかけた本書は、海洋冒険物語の大作中の大作だ。

日本では文庫本が2008年春に発売されたが、当時は地下鉄の車両の中に、「深海のYrr」を読んでいるビジネスパースンを本当に良く見かけた。

始まりはペルーだった。静かな海で漁師たちの行方不明が相次ぐ。北海油田があるノルウェーの近くでは、メタンハイドレートを食べる奇妙な
ゴカイが現れ、カナダ沖では、クジラが人を襲いはじめる。フランスではロブスターが爆発し致死性のウイルスが撒き散らされる。

母なる海で、いったい何が起きているのだろうか。。

あらすじはこんな感じ。
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1

今週の一冊 『ミラクル』 辻仁成 -5冊目

とても大切な人がいるとして、その人の記念日に贈るべき一冊を聞かれたら、辻仁成「ミラクル」を迷いなくオススメします。
ジャズピアニストのシドと、その小さな息子、アル。
アルの母親はアルの出産と引き替えに亡くなっていたが、それを信じたくないシドは、アルに小さな嘘をついてしまう。

「ママは生きている。忙しくて会えないだけだ。雪の降る日に帰ってくる。」
それから二人きりの旅がはじまった。暑くなれば北に、寒くなれば南に。雪を避けるように、シドはアルと旅を続ける。

そんなある日、降るはずのない南の町で、雪が降る
アルがはしゃげばはしゃぐほど、シドの心は暗く沈む。
思い詰めたシドは、一緒にコンビを組んでいる歌手のミナに相談し、
母親を演じてもらうことをお願いするが…。

何かを信じることが難しくなっている。
信じて裏切られることは、やはり辛い。
仮に奇跡がうまれるとしたら、それはきっと形のないものだ。

<オススメ>
-- 信じて傷つき、信じて報われた経験のある全ての大人に

ミラクル (新潮文庫)ミラクル (新潮文庫)
著者:辻 仁成
販売元:新潮社
発売日:1997-07
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

自己紹介
プロジェクトデザイナー。富山県在住。人と組織の問題に興味があります。小説の原稿の断片、日々感じる社会や経済に関する疑問、書評を徒然なるままに。

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