日本企業にはクリエィティビティが不足している、と言われることがあるが果たして本当にそうだろうか。1年前の僕は確かにそう考えていたけれど、最近、お付き合いさせて頂く企業が都市部の大企業から、地方の中小企業へと変化してきたので、その考えもかなり変わったように思う。

実際には中小企業の若手経営者というのは驚くほどクリエイティビティがある。毎日のように新しいアイディアを思いつき、そしてそれを実現する手立てを探している。

では、そういう中小企業が素晴らしいのか。
中小企業が日本の底力か、というと必ずしもそうでもない。

大企業はゾウに例えられることが多い。
動き出すのは遅いが、一度動き始めてしまえば物凄いパワーで向かった方向に前進を続ける。

一方中小ベンチャーは、小動物だ。大きな動物が気づかない低い視点から、自分が生きていくためのエサを探すために、様々な方向に素早く動く。自分が食べていくことはなんとかできるが、大きな変化を起こすようなインパクトには欠ける。

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中小ベンチャーに不足しており、大企業に存在するものは、いざ方針を決めたときの実行力だ。
ヒト・モノ・カネといった使える経営資源が豊富にあるのは大企業の有利な点だが、それ以外にも大企業の実行力を支えているものはある。それはビジネスの基本動作がしっかり身についている社員が多いことだ。

ビジネスの基本動作とは、何かと言うと、

  • 報告、連絡、相談
  • 文章を書く力
  • 法務に関する知識
  • スケジュールを立て、実行する力
  • マナー
  • 社内調整力

といったところだ。社員教育を重視している企業であれば、新入社員の頃に体系的なトレーニングを通じて教えこまれるような本当に基本的な動作ばかりだ。

しかし、地方の中小企業ではこれらの基本動作をしっかり教えていない(教える余裕がない)ところも多い。また、こういった基本動作を身につけることで、その後のビジネスの推進力が飛躍的に高まることに気づかず、昔ながらのOJTに社員教育を委ねてしまっているところも多いように思う。

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大企業には大企業の、中小企業には中小企業の良さがある。
企業規模によって、あるいは企業のライフサイクルによって、どうしても長所・短所というものは出てきてしまうものかもしれない。

であれば、大企業が中小企業の良さを取り入れ、中小企業が大企業の良さを取り入れるような組織づくりを仮に実現することができたら、それは競争力の源泉になるのではないか。

最近、そんなことを考えている。


大企業の良さをもった中小企業、中小企業の良さを持った大企業をイメージするには、学生時代の部活動をイメージするのがわかりやすいかもしれない。

大企業は部員が100人、200人といるような競合校だ。
中小企業は、ぎりぎりレギュラーメンバーが揃うような弱小校をイメージするといい。

これから行う思考実験は地方の弱小校が強豪校になるためには、どのようなストーリーを描けば良いか。というものだ。

残念ながら、現実のスポーツチームはもしドラのように簡単に全国大会に行くことは出来ない。



もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらもし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
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sportsスポーツでの勝利は、人材獲得と組織づくり、またその「人と組織」にあった戦略立案のあくなき繰り返しの果てに初めて得られるものだ。

確かに、スラムダンク、ルーキーズ、柔道部物語といったマンガの世界では、異能の人材(右の表でいう、国内最高レベルの人材)が偶然にも獲得できたが故に、一時的な快進撃を実現できた。

そこには心震える物語がある。

しかし、現実の世界で必要になるのは、時間をかけて、人と組織、戦略が継続的に伸びていくような構造を創り上げることだ。

この点で、スラムダンクの湘北高校、ルーキーズのニコガク、柔道部物語の岬商業高校は失敗している。おそらくこれらの高校は一時的な伝説として終わることだろう。だからこそ、物語として甘美な魅力を持っているのだが。

簡単に全国優勝を狙う方法もある。それはマイナーなスポーツで勝負することだ。

ビジネスでいうニッチ市場といわれるもので、世界に冠たる日本の中小企業と言われるような企業はこの市場の覇者だ。

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少し話がずれたので、元に戻す。
中小企業が大企業の良さを取り入れるために何をすべきか考えてみたい。

多くの中小企業はどの位置にいるか。
それはいうまでもない、一番最初の優秀なコーチが招聘出来ていない段階だ。

優秀なコーチと書いたが、これは必ずしもコンサルタントやコーチを雇え。という話ではない。
(信頼できるコンサルタントやコーチがいればそれもひとつの手ではあるが。)

可能であれば、まずは自分自身が優秀なコーチとなる。
そして、基礎練習・体力づくりを充実させる。

実際には獲得した部員をいきなり試合に出す会社が多いのが現状だし、試合で伸びる社員もいることはいるが、その先にある勝利を得るためには、基礎練習や体力づくりは必須になるだろう。

そして地方大会で貴重な勝利を得た後は、全国レベルの人材のスカウトだ。
これが計画的に出来る企業は本当に少ない。

大体の場合は何かの運や縁に頼って、「たまたま」全国レベルの人材を手に入れる。一時的に企業が成長する原動力となったとしても、そのままでは成長し続けるための構造を創り上げることは出来ない。一時的な気持ちのイイ伝説で終わってしまう。

そこで必要になるのが、優秀なコーチ陣の結成だ。
これは、社内環境を「全国レベルの人材が集う」状況につくりかえることと言える。
それは、評価制度、採用計画、人材育成方針、広報の見直し‥。と細部にわたっての投資と変更が必要になる。これが出来れば、もう全国大会の常連(=大企業)といっていいレベルなのではないかと思う。

都市部のベンチャーの中に短期間で急成長する企業があるのは、戦略が優れているからばかりではない。強豪校で鍛えられた社員(起業家)が、猛烈なスピードで社内環境を整え、全国レベルの人材をスカウト(採用)するようになるからだ。

中小企業が成長するにあたって、スポーツの世界から学べることは多い。