今すぐできる「戦略思考」の教科書 ビジネス本を何冊読んでも身につかない人のための賢いコンサルタントや学者が書く本は内容が高度過ぎ、あるいはトップマネジメント向き過ぎて、中小企業の経営者や一介の営業担当である僕(わたし)には、遠い世界のことに感じてしまう。

そんな人にオススメするのが、筏井哲治(ikatetsu)が書かれた、今すぐできる「戦略思考」の教科書です。




■営業担当者、中小企業経営者のための「戦略思考」最初の一冊


僕がこの本を一読して感じた感想は、営業担当者、中小企業経営者にとっての「戦略思考」最初の一冊。というものです。なぜなら、超一流のセールスマンが書いた、「戦略の教科書」だからです。

著者である筏井氏は、叩き上げの営業担当者です。
それも、並の叩き上げではありません。

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彼は東京の大学を卒業したのち、(おそらく都内にも無数の有望な就職先はあったはずですが)地元である富山の零細IT企業でプログラマとして働き始めます。

プログラミングのみならず、営業も事務も全て自分でやらなければいけない毎日ですが、いつしかそれにも慣れ、顧客の信頼を得はじめた頃、一念発起して東京で勝負しようと思い立ちます。

入社したのは東京にある三菱商事系の情報子会社。そして、職種は営業担当。ここで彼は、誰も売れず、誰も買わない、ある監視ソフトウェアの営業担当になります。ほとんど窓際です。おそらく、北陸の零細IT企業出身のプログラマに会社もそんなに期待していなかったことでしょう。

しかし彼は、ここで頭角を表します。本を読み、売り方を研究し、その監視ソフトウェアを売って売って売りまくったのです。それこそ、周り中びっくりするぐらいに。その実績が認められ、彼は世界一のソフトウェアメーカー、マイクロソフトに半ばヘッドハントのような形で入社を決めます。

そしてそこでも彼は売って売って売りまくり、2009年には歴代最高スコアでトップスピーカーの賞を受章します。マイクロソフトは月単位、部署単位でトップ営業が生まれるような企業ではありません。しかも歴代最高スコア。本当のトップといっていいでしょう。

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そんな彼が経験の中であみ出した様々な「思考の技術」がこの本には詰め込まれているのです。それは、小手先のテクニックではなく、大型商談をする営業担当者全てが心がけるべき、王道の技術といっていいでしょう。


■ トップマネジメントのための「戦略思考」を現場に落としこむ

この本が面白いのは、トップマネジメントのために開発された戦略ツールを現場の一営業担当者が使えるように落としこんでいる点です。一例として、第一章で取り上げられている「アトリビュート分析」に関して紹介します。

これは、サービスや製品の特性を、「肯定的特性」「否定的特性」「中立的特性」と「基本要素」「差別化要素」「決定要素」に分けて考えるというフレームワークです。

アトリビュート

筏井氏は、このアトリビュート分析を、新たな商品・サービスを販売する際の最初の分析に使う。と述べています。顧客のタイプによっては、同じ特性が違うマスに入ることもあるので、顧客タイプ・商品毎にこのアトリビュート分析を行うのです。

エスキモーにとっては、冷蔵庫が持つ特徴である、「夏場でも食材が腐らない」というのは肯定的ではあるが、あって当たり前の基本要素です。

冷凍することで、食材を長期保存できる。という特性は、あってもなくてもいい中立的特性です。

しかしエスキモーにとってみたら、食材が凍らない。という私たちにとっては一見どうでもいい特性は、おおいに差別化要素となるのです。

一介の営業担当者にとってみたら、商品そのものを買えることはなかなか難しかったりします。しかしこうして視点を変えてみることで、顧客すら気づいていない、新たな価値を見出すことが出来るようになる。というわけです。

筏井氏はさらに自分の経験に照らし合わせ、勝てる商談の場合は商品の特徴を抜き出すと図の橙色で塗ったような配置になり、負ける商談の場合は、赤の点線で囲ったような配置になると述べています。

で、あれば営業担当者がやるべきことは、徹底的に顧客と商品について考えぬき、商談の前に可能な限り、橙色で囲ったような勝てるアトリビュート分析のマップを創り上げておくことになるわけです。

本来、商品企画担当者のための戦略ツールを、巧みに営業担当者が使えるように落とし込んでいるわけです。よく考えられたツールは、どのような立場どのような階層でも、考え方・発想次第で応用できる。こういう考え方はとても素晴らしいと思います。

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筏井氏はその後も、マイケル・ポーター教授の5フォース分析を、顧客の状況を分析し提案の糸口を見つけるために使え。というように、「戦略ツール」をとことん現場に応用するための提案をしています。確かに、現場の営業担当者にとっては、自社の5フォース分析を行っても、「だから何?何か変わるの?」という感じです。大企業に勤めている人であればあるほど、そうでしょう。

それだったら、顧客の状況を分析するのに5フォース分析を使い、顧客の戦略に合わせた提案を出来る営業担当者になったほうがはるかに自分にも会社にも貢献できるはずです。

この本にはこういった様々な現場で使われ、練り上げられた戦略ノウハウが詰まっています。

一段階上の営業を実現したい、営業担当者は是非手にとって読んでいただきたいと思います。

また、この本は営業担当者のみならず、中小企業経営者にとっても役立つと思います。
中小企業を飛躍させる「戦略的に考え、提案できる営業担当者」を育成するきっかけとして使える実用書になります。

僕もかつて営業のマネジャーをしていましたが、高度な営業、経営者視点の営業を伝えるために、この本に書かれているような発想や考え方をもとにトレーニングを施しておけば良かった、と感じました。



今すぐできる「戦略思考」の教科書 ビジネス本を何冊読んでも身につかない人のための今すぐできる「戦略思考」の教科書 ビジネス本を何冊読んでも身につかない人のための
著者:筏井 哲治
講談社(2010-11-19)
販売元:Amazon.co.jp
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※ピアズマネジメント社がアップしている「アトリビュート分析」の動画。これは(応用編)ですがあえてこっちを紹介します。筏井氏と、社長の中林氏のかけ合いが面白かったので。「アトリビュート分析‥、あれね、使えない。(中林)」って社長がそんなこと言っていいの?って思います。