さて、前回の続きを書こうと思う。

崖っぷち企業の跡を継いだ2代目は、持ち前の若さを武器に業績をトントンまで持ってくることはできるだろう。しかし、トントンに持ってくるだけでは先細りだ。時間の流れ、加齢とともに、働くことができる時間は年々短くなる。必要なことは知恵を使うことだ。

個人的な体験からくる意見で申し訳ないが、会社を立て直すだけでなく、もう一度成長軌道に載せることが出来た2代目社長の成功パターンを少し紹介したい。


1)事業ドメインを問い直す。

事業ドメインを問い直して成功した企業は数しれない。2代目社長は、業績を安定させるところまでは先代の遺産(人脈や設備など)を効果的に活用することができるが、更なる飛躍をしようと思ったときには、既存の事業に囚われていては限界がくる。新たな成長カーブを描くために、新たに事業ドメインを設定するというのは非常に効果的な方法のひとつだ。

たとえば、印刷会社がある。印刷会社というのは地域コミュニティで販売促進の中心になる傾向の強い業態だ。スーパーの折込チラシをつくる。名刺をつくる。販促用のノベルティをつくる‥。印刷会社はどこの会社にとっても営業促進のパートナーだ。

自社の事業ドメインを「印刷会社」から「企業の売上拡大のパートナー」に変えてみたらどうだろう。もしかしたら、単価を大幅に挙げることが可能になるかもしれない。「売上拡大」を実現するのであれば、印刷するだけでなく、自社でメディアを持つという発想に至るかもしれない。

いずれにせよ、要望を聞き、デザインをし、印刷する。という作業から一歩離れることで単価のアップ、新たな事業機会の獲得が出来るのではないだろうか。社員の発想も広がるし、他社との差別化もしやすくなるのではないだろうか。

自社の事業ドメインを問い直す。それは単純だが、効果のある「事業拡大の知恵」だ。
2)タイムマシン経営を実践する

タイムマシン経営という言葉がある。海外(ほとんどはアメリカ)で成功したビジネスモデルを日本に持ってくる手法だ。例えば、ファーストフードや、フランチャイズという概念はアメリカから輸入されたものだし(そして大成功した。)、あと草創期の国内ネットベンチャーはほとんどが、このタイムマシン経営にのっかった成功だ。

地域間に存在する情報格差(ギャップ)をお金に変えるわけだが、国外と国内の差ばかり意識する必要はない。国内であっても、大都市と地方の間には、大きなギャップがある。大都市で成功しているモデルを、地方に持ってくることが出来たら、それは地域でナンバー1、オンリー1の業態になる可能性がある。

学習塾でも、飲食店でも、鉄工所でも印刷屋でも、工務店でも、大都市で成功しているモデルを地方に応用できないか考えてみる。これも、比較的取り組みやすい「知恵」「改革」の一例と言えるだろう。


3)提供している「真の価値」をお金に変える

1の事業ドメインの話と絡む部分もあるけれど、提供している価値とお金のもらい方が正確にリンクしていない企業というのは結構ある。例えば、人の相談にのることが好きな聞き上手がいて、その人が魚屋をやっているとしよう。

人の相談にのることが好きで、聞き上手であれば、その魚屋はきっと繁盛する。しかし、もしかしたら、彼が提供している本当の価値は「カウンセリング」や「コンサルティング」、「問題解決」であるかもしれない。もしそうだとしたら、提供している本当の価値をお金に変える方法はないか、考えてみてはどうだろう。

街の電器屋さんであれば、そこから商品を買うのはきめ細やかなアフターフォローが受けれるからかもしれない。で、あれば、「きめ細やかなアフターフォロー」自体に値段をつけてみてはどうだろう。


4)ひとつの武器を磨き上げる。

あるひとつの分野に経営資源を集中させ、エッジのたったサービスを提供する。船井総研が述べるところの「地域一番店」の戦略などもこれに当てはまると思うし、、経営戦略論で述べるところの「ニッチ市場を抑えたプレイヤー」もこれに当たるのだろう。

実例を見てもらうと非常に分かりやすい。最近知ったサービスですごいなーと思ったのが下記のサービス。

ハイブリッド型会社案内 すごい名刺


通常、小規模事業の名刺作成というと、50枚2000円で、デザインは自作。というケースが相場なのではないかと思う。そんな中、この会社は、デザインで12万円、印刷100枚2万円という価格をとっている。相場から考えるとトンデモなく高いのだが、実際にこの名刺がきっかけで仕事が1本取れれば全然ペイするわけでして、そう考えると安い名刺とも考えられる。

これは、名刺作成というひとつのサービスにフォーカスしつつ、デザイン・印刷会社から、顧客獲得の広告会社に事業ドメインを変更した好例と言える。こういう発想が、崖っぷち企業の2代目経営者には欲しいところだ。(どうでもいいですが、アルーというロジカルシンキング100本ノックなどで有名な会社の取締役である池田さんは、「ベンチャー企業はロンギヌスの槍というひとつの武器を磨き上げて、ATフィールドを突破するんです!」という表現で、このひとつのサービスを磨き上げる重要性を力説しておられました。まぁ、多少酔いもあったと思いますが‥。)


5)サービスに値段をつける/パッケージ化する

サービスに値段を付ける。って当たり前のように思えるけれど、実際にオープンに値段を開示している会社って意外と少ない。要望に応じて個別見積もりするのが基本だったり。まぁ、それはそれでいいのですが、ひとつでもふたつでも、パッケージ化して値段をつけるサービスが出来ると仕事の幅、顧客との出会いは広がる。

パッケージ化することで、他社との比較が鮮明になるし、差別化の意識も高まる。そして何より納品効率が高まる。試してみる価値はある。


----

さて、崖っぷち企業が安定から飛躍に至るための知恵を5パターンほど書いてきた。
実際にはもっとあるに違いない。けれど、この5つの問いを真剣に考えて実践するだけでも、新たな成長の道筋が描けることは多いのではないかと思う。

シンプル故に、もしかしたら分厚い経営戦略書を読むよりも、すっきりと次の戦略が見えてくるかもしれない。