昨年まで、年に数本の割合で企業のインターンシップで用いられるケーススタディーやゲーム型のコンテンツを作成していたのだけれど、そこで企業から求められたのは、徹底して「仕事の具体化」だった。

具体化とは、

「はっきりした形や内容を備えてくること。実体を備えてくること。」(goo辞書)

とあるが、実際に仕事を具体的にイメージすることができたインターンシップほど、参加した学生の満足度は高くなる。ちなみにインターンシップに限らず、会社説明会でも仕事の内容を具体的にイメージできたものほど満足度は高くなる。

これはよく考えてみると当たり前で、仕事を経験したことがないのだから、具体的な仕事を体験することへの欲求は当然高くなる。こういう層に対して、仕事体感という名のもとにゲーム等で楽しみながら仕事を理解するようなコンテンツに取り組ませるのは、ニーズを外していると言える。

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一方、マネジメント層や経営者層に必要な思考は、抽象化だと感じる。
抽象化というと、あまり聞き慣れない言葉だが、wikipediaには次のようにある(※)

「抽象化(ちゅうしょうか)とは、思考における手法のひとつで、対象から注目すべき要素を重点的に抜き出して他は無視する方法である。抽象化において無視することについては捨象するという。」(wikipedia)

これは優れた経営者や経営コンサルタントが意識して行っていることだったりする。
また、ビジネスゲームを作成する際に、最も心を砕く部分でもある。

経営コンサルタントの主たる仕事は、業績を向上させるのに(あるいは依頼を達成するために)最も決定的な要素を探し出し、それを改善・強化することだ。これは、「KFS(あるいは、キー・ドライバー)を探せ」「ボーリングの1番ピンを倒せ」といった言葉(業界用語か?)で語られるけれど、これはまさに抽象化の作業といえる。

世の中の問題は複雑だ。人権や価値観が複雑に絡む政治の問題では、複雑な問題を抽象化して考えることは危険を伴う。しかし、ことイチ企業の経営という問題であれば、ものごとを構成する数十の要素を抽象化するという作業は経営の意思決定に非常に役立つし、効果的だ。

企業理念や企業ビジョンが必要だ。と語られることは多いけれど、明確な理念やビジョンがあると、効率的に抽象化の作業を行える。理念やビジョンが社風として 社員に浸透していると、社員も自然と抽象化が出来るようになる。(これは、社員の裁量の拡大と意思決定の迅速化に繋がる。ただし、理念やビジョンがマイナ スに働くと思考や行動の硬直化を招くこともある。)

ものごとを複雑に考えすぎてしまい、思考や行動がストップしてしまいがちな人は「抽象化」を意識しながらモノゴトを分析してみるといいように思う。



※wikipediaの抽象化の説明は、一般的ではないかもしれない。抽象化の意味を一般の辞書(三省堂)で調べると「抽象的にすること」とあり、「抽象的」を調べると、「(1) 個別の物事を一般化して考えるようす。(2) 実際の物事に基づいていないようす。」と書いてある。故に、通常では「抽象的な話をするな!具体的に言え!」というように、否定的な意味合いで抽象という言葉が使われることが多いと思うが、今回はプラスの意味にスポットを当てて紹介してみた。