経済学素人のためのミクロ経済学、三回目は「市場」について整理します。
例によって、ネタもとは、八田達夫先生のミクロ経済学です。自分の勉強のためにまとめたもので、随分はしょってますので、興味のある方は是非原書をご覧頂ければと思います。

■経済主体の活動と市場

words

経済学では、経済活動(財・サービスの消費・生産・取引)をする単位のことを経済主体と呼び、経済主体には、家計・企業・政府などがあります。

企業は、労働・土地・中間投入物・資本を投入して、財・サービスを生産します。(※中間投入物とは、モノを生産する際に短期間で消費されてしまうものを指し、それ以外のものを資本と呼ぶようです。中間投入物≒原材料と考えればよいかもしれません。)

家計は、一般家庭と考えればよいと思います。

経済主体の中心となるのは、家計と企業になるのですが、その関係は下記の図で表すことができます。

economy
  • 企業は家計から、労働・土地・資本などの要素サービスを購入し、財・サービスを生産します。
  • 家計は企業から生産物を購入し、要素サービスを提供します。

実際には、企業も他の企業からモノを買ったり、家計も他の家計からモノをかったりしているのですが、単純化のためにいったんそれらはモデルから無視して考えます。

また、家計が資本を企業に提供するというのはイメージしにくいかもしれませんが、実際には家計は銀行預金や株式の保有を通じて企業に資本を提供しています。

家計も無数にありますし、企業も無数にあります。無数の家計と企業が要素サービスや生産物をやり取りする場を市場と呼びます。
(fukui's メモ)以下、八田先生の言葉より引用します。
経済活動によって、最終的に経済システムの成果を得るのは誰かというと、結局家計です。家計が生産物を消費することによって、ある生活水準を得ることができます。それが経済活動の最終的な成果です。
企業が儲けることは経済活動の最終的な成果ではありません。利潤は企業の持ち主(株式会社なら株主)の所得になり、彼らの生活水準を改善します。だから最終的には、企業の持ち主を含めたすべての家計の生活水準がどれだけ改善するかということが、経済の昨日を評価する基準になります。
すごく基本的なことではあるけれど、政治家や経済学者のみならず、僕たち全ての国民が上記の言葉を念頭において、経済活動を評価できるようにならなければならないのだろうな。と思います。

今は、そもそも利潤が上がっていない状況なので、まずやるべきは、各企業が利潤を上げれるよう、適切に市場の失敗を是正していくことなのでしょう(規制はたくさんありますし、情報の非対称性も市場問わず多く存在していると思います。)。そして、その後、利潤が適切に国民生活の向上に繋がるよう、適切に再分配するべきなのでしょう。現政権はどちらもあまり上手な手を打てていないように感じます。


■需要と供給

ns-curve

市場では、需要と供給が一致するところで、財・サービスの価格と取引量が決まります。(赤の実線で示す需要曲線と、灰色の実線で示す供給曲線が交わるE点で価格と数量が決定します。)

※少しわかりにくいのは、数学の場合、X軸の値を変動させることによってY軸の値が決定していたのですが、需要・供給曲線は、価格(Y軸)を変化させることによって、数量(X軸)の値が決まる。ということです。これは初期のうちは特に混乱するかもしれません。(私、fukuiは数学を真面目にやっていなかったので、特に違和感を感じませんでしたが、熱心に数学をやっていた方は気持ち悪く感じるかもしれません。)

通常、価格が高くなれば需要は減り、安く慣れば需要は増えますから、需要曲線は右下がりになります。
一方、価格が安ければ供給できる量は減り、価格が高ければ供給できる量は増えます(生産にかかるコストを回収出来る)から、供給曲線は右上がりになります。

※たとえば例年より寒い冬で、肉まんを求める人が爆発的に増えたとしたら、高くても買う。という人が増えるでしょうから、需要曲線は全体が右にシフトします。(E1で価格と数量が決定します。)一方、豚肉の価格が高騰した場合、生産コストも上がりますから、同じ価格で供給できる数量が減ります。その場合、供給曲線は全体が左側にシフトします。(E2で価格と数量が決定します。)


■実際の需要曲線

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実際には人によって好みが違いますから家計毎に個別に需要曲線を持つことになります。安くても高くても買う人、相当安くなってからはじめて買う人点など。それらを合算すると実際に市場での需要曲線になります。同様に供給曲線も個別の企業ごとの供給曲線を合算したものが、市場での供給曲線になります。


■裁定(アービトラージ)

財・サービスの価格が2箇所で異なる場合、安いところで財・サービスを購入し、高い所で財・サービスを売るという行為が発生するようになります。この行為を裁定といいます。裁定が行われる結果、財・サービスの価格は均衡します。こうして「一物一価の法則」が成り立ちます。ただし、輸送費が発生するとその分だけ、価格差は残ることになります。


■価格規制
政府が価格を規制して、高い価格で取引してはいけないようにすることがあります。これを価格の上限規制といいます。反対に超過供給があるのに価格をこれ以上下げてはいけないということもあります。これを価格の下限規制といいます。
上限規制の例として出されているのが、戦争。多くの労働者が軍事工場にとられるので、生産物の価格が全体的に上がります。しかし、物価が上がらないように無理やり価格を据え置くわけですから、財・サービスの供給不足になります。これを防ぐために、政府は配給制度(一人当たりの購入数を制限する制度)を同時に採用することが多いようです。戦争を行うと不幸になりそうです。

もうひとつ、下限規制の例として出されているのが、最低賃金の問題。最低賃金が高く設定されると、供給量に対して需要が不足するので、失業が発生するとといています。これは家計を守るための施策が逆に家計の首を締める典型例と考えて良いと思います。
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(fukui's メモ)強い解雇規制や低下させにくい賃金なども、失業率の増加に一役かっていそうです。ただ、日本の雇用形態は、新卒の機会を逃すとなかなか就職できなかったり、再チャレンジがしにくいこともありますから、雇用をめぐる問題は問題が山積している状態だと思います。規制を緩和して景気回復を狙うか、あるいは景気を回復させたのち一気に規制を緩和するというやり方かどちらかしかないのかなと思います。ただ、景気回復の糸口が見えない現段階では、強すぎる正社員の解雇規制や賃金水準を先んじて緩和せよ。という意見は一理ありそうです。

(fukui's メモ)需要と供給の関係は、ビジネスに当てはめて考えると、いろいろ応用が効きそうです。たとえば、需要と供給の均衡点はひとつの財・サービス毎に存在するという前提がありますが、財・サービスを自社でしか提供できないものにしてしまえば、独占的に価格を決めることも出来そうです。「戦略とは差別化であり、差別化とはつまるところセグメンテーションである。」という言葉があるのですが、これはつまり、一見似ているが自社しか提供できない財・サービスを作ってしまって、独占的に価格決定して利益を確保せよ。と言っているようにも思えます。



さて、今日はこれぐらいにしておきます。
次回は「供給」について取り上げる予定です。



ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)
著者:八田 達夫
販売元:東洋経済新報社
発売日:2008-10
おすすめ度:5.0
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