企画を出してから、承認され実行されるまで、嫌になるほどチェックを受けなければならず、実行に移したときには既に遅すぎる。みたいな、そんな企画が世の中にはたくさんある。クリエイティブな人にとっては上司に対する不満の一番の原因がこれだろう。

「危機的状況なのに、上の人間は何もチャレンジしようとしない!!」

ってね。

僕もどちらかというと、創造と挑戦をこよなく愛するほうなので、こういいたくなる気持ちは痛いほどわかるのだけれど、一方で上の人間の意見もわからなくもない。

それなりに大きな企業になると、投下するコストに対して、それなりのリターンが求められるからだ。例えば大手企業であれば、人件費なども高い。それなりに力のある人を3人ぐらいプロジェクトの専任メンバーとして手配すると、コスト面では5000万や1億ぐらいは簡単に吹っ飛ぶ。

彼らを、既に成功している主力事業に突っ込めば、その数倍の売上や利益が見込める場合も多いだろうから、機会損失はそれ以上になる。(優秀な人であればあるほど、機会損失は大きくなる。)

そのコストの見合ったリターンを得られる事業を生み出せるかどうか。これは大変難しい。
誤解のないようにいっておくと、単に黒字化する事業を産み出すだけであればこれほどは難しくないだろう。経営者としては、その優秀な人材を既存の成長事業に投下して得られる利益よりも多くの利益を新規事業に求めなければ、なかなか新規プロジェクトにGOの決断を出せないのだ。

論理的・合理的な経営者ほど、短期的には優秀な人材を主力事業に突っ込んだほうが儲かることがわかっている。中長期的には主力事業が衰退することがわかっていても、なかなか踏み切れない。新規事業はどのようなものでもリスクが高いからだ。
それでも成長期であればいい。経済全体が成長し、多くの企業が潤っていた時代は、リスクが高くても新規の事業に挑戦する余裕があった。日本的経営が普通だった時代にはこういうことが行われていた。

しかし、欧米のMBA的な考えで言えば(今でもそうなのかはわからないが)、たとえ黒字であっても、調達する資金のコストよりもリターンのほうが少なければ、その事業からは撤退せよ。と説く。年利3%で資金を借りているのであれば(新規事業に取組む際には追加の資金がどうしても必要になる)、利益率は3%以上、失われる機会費用も含めると7%ぐらいのリターンが見込めないと新規事業には取り組まない方が良い。という判断になる。

大企業はこれでいいかもしれない。大きくなった組織をいったん絞り込んで本業回帰というのもいいだろう(実際には日本の場合は硬直的な雇用制度があるので大規模なリストラはなかなか難しいのでこれすら出来ないケースも多いが)。

ベンチャー企業や中小企業の場合はどうだろうか。多くの場合、資金は大企業よりも高利率で借り入れている。新規事業に優秀な人材を割かねばならない場合、失われる機会費用も高くなるので、相当高いリターンを見込まなければその事業は取り組まない方がいい。という判断になる。で、大体計画段階で、そういう計画が出てくることは稀で、出てきたとしてもやっぱり3年ぐらいかかる計画なので、企業体力が持たないかもしれない。じゃあいったん取組むの見送ろうか。という話になることもある。

実際には、大手企業はまずはコストカットで肥大した体質を骨太にする方向に舵をとる。新規の企画は大体見送る。リターンが見込めないからだ。

ベンチャー企業はリスクをおかしてチャレンジすることも多い。リスクは非常に高いけれど、どうせ八方塞がりでゆっくり死んでいくのであれば、試してみようか。というわけだ。

これは普通の状況。

一番最悪なのは、不況にも関わらず、大手企業が新規事業の方向性を間違えたとき(例えば日産がコストカットは上手くいったものの、電気自動車等の開発は後手に回ってしまったことなどが例として挙げられる)。

もうひとつ最悪なのは、中小・ベンチャー企業なのに不十分なコストカットで、新規事業に取り組まず、保守的になることだ。

好況時のマネジメントも難しいが、不況時のマネジメントはもっと難しい。組織の中のクリエイター達には、経営の時期を見計らって企画を出すことが求められている。