My Life in MIT Sloan : 日本の出版社が直面するイノベーションのジレンマ

にインスパイアされて原稿を書きます。出版社ももちろん厳しいのだけど、新聞社も厳しい。雑誌社はクオリティの高い取材とコンテンツ編集が強みの一つなので、クオリティを高めつつ、コスト削減。という道をしっかりと歩めば、縮小均衡を実現することも可能かもしれません。

しかし新聞社はどうか。新聞社の特徴は速報性と解釈にあります。しかし、その速報性は既にインターネットメディアに一歩も二歩も遅れを取り、ニュースの分析・解釈に関しても、紙面で伝えられる情報には限りがあるため、右なり左なり一方向的な見解を述べるに留まるしかなく、現在ではネットによる多面的な解釈の前に遅れをとっています。

いまや、新聞社は産業全体が風前の灯といっていい、と思います。

さて、新聞社の不況は数字面でも現れており、1月29日に発売予定の電通メディア白書2010では、2009年の新聞広告市場を、8200億円→6500億円(21%ダウン)と報じている模様です。(株式会社アールリサーチのBlogより引用)

また、リーマン・ショックがあった08年のデータで恐縮ですが、新聞社の財務状態も07年から08年にかけて軒並み厳しくなっており、08年以上に厳しい年となった09年は更なる落ち込みが予想されます。

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さて、八方塞がりな情報では新聞各社としても打てる手は限られており、経営コンサルタントの大石哲之氏などはご自身のブログの中で、再建戦略を次のように述べておられます。

大石哲之公式ブログ : 新聞社の経営を任されたら?


結局、マスを狙っていくしかないかな。戸別に配信できるというのは、けっこう強い。他の媒体にない強みなのだから、それを生かす方向で。(中略)読者半減でも、コストを7割下げて、高収益を確保。ま、後ろ向きなリストラ主義な戦略だけど。(中略)

でも、いまの法律や組合だと、人を削減できないし、賃金も下げられないし、年金も削減できないから、結局、コストは削減できず、会社が潰れるまで、みんなが吸い取って、最後は破綻だね、という話。(中略)

反対に、新聞のはなしだと、かならず出る、特化。なにかに特化して、高収益にするといっても。現在の伝書鳩みたいな記者に、ブロガーみたいに専門的かつわかりやすい記事を書けっていっても、無理でしょ。外国のジャーナリストから見ると、記者クラブの記者は、記者とおもわれてなくて、役所の広報という分類らしいから。
というわけで、
新聞社の経営を任されたら?というタイトルにも関わらず、リストラ無理・特化も無理で破綻。という実に後ろ向きな、経営放棄な案を思考実験されておられます。(いや、もちろん本気で取り組まれたら、大胆な改革されると思いますが。)

まぁ、これじゃ余りに救いがないので、僕も少し考えてみることにしました。
私が改めて述べるまでもなく、インターネットが普及した現代、マス向けの新聞よりも地方ローカル紙のほうが強いと一般的に理解されています。強い理由は下記の通り。
  • 社屋・記者など大手紙に比べ低コスト構造である。(大手紙のコスト感覚はこちら
  • ローカルに特化した記事を保有している。
  • 地方では高齢化が進ことによって、デジタルデバイドがより激しくなっている。
  • 地方セグメントに絞れば、トップシェア。
というわけで、低コスト構造、ターゲットを絞る、デジタルデバイドを利用、という前述の大石氏の提案を既に8割方実現しているというところが強いです。しかも地元での知名度はナンバー1で価格競争力もある。
気候が変動し、熱帯に特化した身体構造を持っていた恐竜は滅びたにも関わらず、それまで日陰の身だった、トカゲや亀といった熱帯に特化した身体構造を持たないマイナー爬虫類はほそぼそと生き残る。そんな感じです。

全国紙ではなくて、地元紙であればスムーズに生き残る術もあるのではないか…ということを考えた際に、最適なケーススタディとして思い浮かんだのが、富山の星、北日本新聞です。

北日本新聞のことを説明しますと、これがまた、実にローカル紙らしいローカル紙で、昨年は富山にセブンイレブンがオープンしたということで一面を飾ったり、北日本新聞社が主催する展覧会やイベントを全力でお手盛り応援したり、どこそこの誰それが亡くなったとか。そういう記事が満載の新聞です。(北日本新聞の号外を見ると微笑ましくなります。カターレ富山初勝利、富山商甲子園で初戦突破なんて日には、一面トップでは足りなくて、号外です。当然。)

しかし、富山県民は皆これを読んでる。富山県の人口は110万人で、平均4人家族と考えると、27.5万世帯。発行部数が25万部ということは単純計算でカバー率90%。(もちろん県外への配布などもありますから実際のカバー率は67%程度になるらしいです。それでもクープマンの目標値でいう、独占的市場シェアに近い数値です。)ある意味、化物新聞と言えるでしょう。

さて、この北日本新聞が昨年末、衝撃のニュースを配信しました。
北日本新聞社は2010年1月1日、ウェブ新聞「webun」を創刊しました。2月から会員制になり、朝刊読者はこれまでの購読料のまま北日本新聞webun会員として、すべてのページを閲覧し機能を利用していただけます。
ウェブ新聞を創刊し、1月のあいだは広く無料で読むことが出来、2月以降は既存購読者も無料で読める。というものです。

最初見たときはなんとも思わなかったのですが、
TechWave : 米Newsday紙、有料化でなんと35人読者ゲット!

この記事を読んで、Newsday社に比べたらよく考えられている戦略だなー。と思ったわけです。まぁ、実際、Newsday紙もTechWaveの記事だけでは成功とも失敗ともわからないわけで、既存の読者が維持できればそれは成功と言えるかもしれないわけです。

北日本新聞も当然それを狙っているわけで、これからウェブに需要がシフトしていくところ、既存顧客を逃さないようにウェブ媒体を作る。それだけでまず第一弾としてはOKで、それからコンテンツ強化と営業強化、コスト削減に入る。

コンテンツ強化はフリーで力のあるライターを増やす。あるいは外部のブロガーと提携するという方法をとればいい。多様な視点からの分析が可能になるし、いいことづくめだ。営業強化は既存広告ではなくネット広告へのシフトだ。ここらへんは ライブドアがリードする新時代のメディア戦略 を参考にして欲しい。社員数が305人ということなので、既にコストもぎりぎりでやっていると思うのだけれど、これは、時間をかけて、記者及び営業社員の人数を減らすことで実現出来るだろう。もしかしたら配布コストも減らせるかもしれない。

折り込みチラシも収益源だと思うけれど、僕だったら、電子ブックリーダーを5000円ぐらいで手に入れて、無料で各戸に配布する。ソニーとかだったら、KindleやAppleのタブレットPCにおされてるし、交渉次第で可能じゃないだろうか。12億5000万の投資だ。不可能な額じゃないだろう。

使い方を習熟させる必要はあるけど、文字の大きさもかえれるし、習熟次第じゃないだろうか。メイン顧客となる60代は電子ブックリーダーを扱う余裕もある。

で、その上で、紙がいらない。って家に関しては電子ブックリーダーの配布だけで済ませる感じかな。インフラをスピーディーに抑えることができれば、日本の自治体の中でも飛び抜けてIT化が進んだ県になるかもしれない。楽天やAmazonと提携すれば、足の弱いお年寄りも気軽に楽しく買い物ができるようになる。

民間主導でそんな県にできたらいいな。
僕にも原稿執筆の依頼が北日本新聞から来るようになるかもしれないし。(←大事)