ネクスト・マーケットを読み直していて興味深い記述に気付いた。ネクストマーケットは2002年にC.K.プラハラードが書いた論文をもとに作られており、世に初めてBOP(=Bottom of the Pyramid)という50億を超える市場の存在を明確に示した書籍だ。

BOP市場を狙う企業や社会起業家にとって今はバイブルとなっている。

さて、この本で僕が気になったのはインドについて書かれた、下記の一連の記述だ。20~70年前のインドが抱えていた構造的な問題に言及しているのだが、まるで今の日本のことを述べているかのように感じたからだ。

インドは、「民間企業への深い疑い」を抱いたまま始まっている。その背景には、この国が東インド会社や植民地主義と関わっていた影響があり、現地の民間企業との付き合いも、あまり前向きに捉えられていなかった。「民間企業は貧困層を搾取するもの」という疑念は、「正しく道徳的なこと」を行う政府機関に対する絶大な信頼と結びついた。
つい先日、日本でもあまりにも株主を重視した風潮という言葉を国会議員が用いて、ブログで大きな論争を起こした。(原文は削除されているが、引用文を用いた反論は BLOGOS:株主至上主義って? で確認できる。 )

サブプライムローン問題を発端とする一連の金融危機がトリガーとなって、現行の株式会社制度に対する批判が生まれたのだが、単純な「株式会社が貧困層を搾取している。政府は正しく道徳的なことを行う。」という方向に議論を誘導すると、かつて貧困から抜け出せなかったインドの二の舞とならないか。

この疑いは民間企業の規模や広がりを管理することへとつながり、いくつかの分野は小規模産業として固定されてしまった。たとえば、繊維産業における手織機の分野は、優遇された小企業によって独占されていた。
民間企業に不要な規制を設けたり、競争を阻害するような行動を政府が取ることは、一部の企業による非効率な独占をまねくことにならないか。不必要なターゲティング政策を実行することも規制や阻害の要因になりうる。

公共政策が力を注いだのは、富を生み出すことよりも「公平に分配する」ことだった。富の所有に格差があり貧困層が多数を占めていたため、政府は富の分配を「公平にする」政策を最優先にすべきだと考えたのである。
子ども手当の考え方が全て悪いとは思わない。しかし、本当に少子化は問題なのか。手当て以外の解決策はなかったのか。僕は少子化対策として子ども手当はほとんど機能しないと思っている。それは婚外子問題に対する理解不足から、片手落ちの政策となってしまっているからだ。(過去エントリ: 少子化ってホントのところ、どれほど問題なんだろうか。 )今の子ども手当は、人気を取るための単なる富の分配政策になっている。

つまり、昔からのこうした見方は、完了や政治家が講じてきた対策の裏に潜む、ある種の哲学を反映している。ようやくここ10年のあいだに、従来の見方からより市場原理に基づいた見方へと、徐々にではあるが変化が起こっている。
ある種の哲学とは何か。プラハラードは長年かけて築かれ、支配されてきた論理を手放すのは難しい。と述べている。現在の日本政府が陥っている非効率で支配的なイデオロギーは、自民党を倒し、政権を取るという論理でありイデオロギーだろう。(そもそも選挙のキャッチフレーズが、政権交代だったのだから当然だ。)

仕訳けに代表される、自民党政権が培ってきた利権の仕組みを見直すという、望ましい動きもしているが、かつての小泉政権による改革を否定し、格差是正の名のもとに、非効率な経済政策を実施している面はないだろうか。

さて、話をインドに戻そう。独立後45年の長きに渡って非効率な経済運営を強いられていたインドは、構造的な貿易赤字と内政不安に陥り、ついに1991年に湾岸戦争が発端として経済危機に陥る。

経済の立て直しを目的として新政権を担ったナラシマ・ラオは新経済政策を実行にうつす。その内容は下記の5項目からなる、規制の撤廃と自由競争の促進を中心とした経済政策だった。
  1. 産業ライセンス等の規制緩和による民間活力導入をめざす産業政策
  2. 外資の参入規制、配当金・ロイヤリティ送金規制の緩和による外資政策
  3. 関税引き下げ、輸入インセンティブの見直しなどを含む貿易政策
  4. 非効率な赤字経営をしている公企業の改革および
  5. 財政・金融改革
結果はどうなったか。下記グラフ( India Economic Survey より作成 )を見てもらいたい。

india

経済が不安定に上下し、5~10年のスパンで経済不況に陥っていたインド経済が見事に立て直され、1992年以降は平均して6.8%の高い成長を記録している。(2000年前後にアジア通貨危機が生じ、一時経済が停滞したが、それもたくましく乗り切っている。)

もちろん日本とは経済規模も、産業が直面している状況も、人口も違う。一概に比較することは出来ない。しかし、中国の成長も(経済に関して)共産主義というイデオロギーから脱したところから成長が始まった。

日本も自民党打倒という過去に自分たちが作り上げた概念から脱し、規制緩和や自由競争の促進という、経済を豊かにする政策に関しては、積極的に実行していいのではないかと思う。




※Giftというプロジェクトの一員として、国内のソーシャル・イントラプレナー(企業内の社会起業家)の拡大・育成と、BOP市場開拓のための人材育成プログラムに協力することになりました。

2月20日 これまでの研究結果をまとめた ソーシャル・イントラプレナー養成講座を開催します。興味のある方は是非ご参加ください。また、研究成果に関しては来週からスタートする新しいブログで随時報告していきたいと思います。

ソーシャル・イントラプレナー養成講座に関してはこちらから詳細確認、お申し込みください!


ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ)ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ)
著者:C.K.プラハラード
販売元:英治出版
発売日:2005-09-01
おすすめ度:4.5
クチコミを見る