前回のエントリでは、人口減少時代の大学教育について考察しました。
そんな中、人口減少時代のモデルとも言える活動を展開している大学の記事をみかけたので、紹介します。
〈学長力〉秋田発 世界標準に 国際教養大 中嶋嶺雄学長
よくある大学の戦略や学問のあり方を語るだけの記事であるならば気にもしないのですが、ブームにのって設立された新設大学と違い、しっかりしたコンセプトと戦略を感じたので、ご紹介したいと思います。
国際社会で活躍出来る人物を育てる、というコンセプトのもと、国際教養大では
以上の方針をとっています。これだけでも十分素晴らしいと思いますが、更に感心したのは教授の選抜方法です。前回のエントリで説明した、教育と研究は違う。ということを十分理解し、教員の選抜を行っているです。以下は、学長の言葉です。
そのため、人件費を抑えつつ、若く、優秀な非常勤講師を揃えることも出来ていると思われます。
ユニークで時代に即した教育方法を取り入れることで、高い教育効果を上げていると思われますが、
驚くべきは、これだけではありません。
高い教育効果が就職に大きな影響を与えているのです。
就職希望者全員が内定 秋田・国際教養大
国際教養大のような新設校は、企業の人事担当者に対するブランド認知度はほぼゼロといっていいので、就職活動は至難を極めます。にも関わらず、その中で内定率100%、就職活動を開始して3年目に国内企業の中でも入社最難関と言われる総合商社に7名内定というのは、並大抵の成果ではないでしょう。(総合商社というからには、三菱商事、三井物産、住友商事、双日、丸紅、豊田通商の6社のいずれかへ入社したと考えられます。)
これは、
僕は2~3年ほど前に、東京で学生向けのビジネスセミナーを行っていたときに、国際教養大の学生さんとお会いしました。ネットを通じて何回か事前にやりとりはしていたのですが、直接顔を合わせたのは初めてでした。東京までわざわざ学びに来る積極性や、ディスカッションを通じて貪欲にものごとを吸収しようとする姿勢にはおおいに驚かされたことを思い出しました。(まさか100人程度の新設校とは思いもしませんでした。)
もちろん、就職率の考え方にはいろいろあります。大学側が就職ではなく進学を希望しています。と言えばそれまでですし、仕事を選ばなければ、就職率を高めることはできるでしょう。ただ、国際教養大の場合は、企業に受け入れられるだけの理由がある、実を伴った数字だと考えられます。(逆に実を伴っていない大学と言うのは、教育に力をいれず、就職支援という出口支援にだけ力を入れる傾向があります。決して悪くはないのですが、本質的な力を高めることに成功していない場合、企業からの評価を落とす可能性もあります。)
さて、最後に国際教養大の入り口戦略に関して述べたいと思います。これまで見てきたように、
結果的に、入学の難しさも東京の有名私立と変わらない水準まで高まるとともに、定員も徐々に増やしているようで、今のところ、国際教養大の戦略は極めて有効に機能しているように思えます。
国際教養大の強さを支えているのは、学長のリーダーシップが遺憾なく発揮される、独裁制と学長以外の職員を可能な限りフラットにする公平性とのことです。
強者に挑み、乗り越えていく新規参入者としては、スピーディーな意思決定がなにより重要ですが、それを実現するために、大学の組織自体を工夫しているのは素晴らしいと思いました。
創設当初は優秀だったけれど、徐々に学生や教育の質が落ちてくる大学も多いと聞きます。しかし、スピーディーな意思決定を実現する組織と、強みにフォーカスしたカリキュラムはこれからの時代のモデル大学となるに十分な取り組みです。これから試練を乗り越え、時代に必要とされる教育を次々と提供していく大学になるのを楽しみに見守りたいと思います。
#2010年1月6日追記
Twitterにて、教育重視かつ任期制で優秀な非常勤講師が来るというのは信じがたいという指摘を頂きました。確かにそのとおりだと思います。短期間であれば、優秀な大学を出て、高い能力をもった方が、英会話学校などに数年間の期間限定で努められるケースを知っておりますが、そういった方々を安定的に教員として確保することを考えると、やはり任期制では不可能だと思われます。
学長のインタビュー記事に、テニュア制の導入を考えているという一文がありましたが、創立して6年がたち、任期制の限界を迎えつつある時期なのかもしれません。
そんな中、人口減少時代のモデルとも言える活動を展開している大学の記事をみかけたので、紹介します。
〈学長力〉秋田発 世界標準に 国際教養大 中嶋嶺雄学長
よくある大学の戦略や学問のあり方を語るだけの記事であるならば気にもしないのですが、ブームにのって設立された新設大学と違い、しっかりしたコンセプトと戦略を感じたので、ご紹介したいと思います。
国際社会で活躍出来る人物を育てる、というコンセプトのもと、国際教養大では
- 授業は全て英語
- TOEFL550取得必須
- 1年間の留学を義務付ける
以上の方針をとっています。これだけでも十分素晴らしいと思いますが、更に感心したのは教授の選抜方法です。前回のエントリで説明した、教育と研究は違う。ということを十分理解し、教員の選抜を行っているです。以下は、学長の言葉です。
「教員はほとんどが国際公募で、当初20人の募集に400人以上来ました。その中の60人に面接し模擬授業をやってもらったのが非常によかった。経歴だけ見ると、ケンブリッジやオックスフォードで博士号を取った人もいたが、研究と教育はかなり違う。若い人に教養を教えられるかどうかを見ました。」新設大学として、大学が持つ研究の側面を捨て、教育にフォーカスしています。資源に限りがある新設大学としては極めて正しい戦略です。
- 教職員の任期は3年で固定
そのため、人件費を抑えつつ、若く、優秀な非常勤講師を揃えることも出来ていると思われます。
ユニークで時代に即した教育方法を取り入れることで、高い教育効果を上げていると思われますが、
驚くべきは、これだけではありません。
高い教育効果が就職に大きな影響を与えているのです。
就職希望者全員が内定 秋田・国際教養大
2004年4月に開学、就職活動初年度となる07年度から内定率100%で、08年度も1人を除いて全員希望する企業に就職しており、3年連続の好成績が続いている。
教養大キャリア開発室によると、本年度の求人は、中堅メーカーが昨年に比べて減少し、総合商社への就職内定が前年度の2人から7人に増えるなど、大手に進むケースが目立つ
国際教養大のような新設校は、企業の人事担当者に対するブランド認知度はほぼゼロといっていいので、就職活動は至難を極めます。にも関わらず、その中で内定率100%、就職活動を開始して3年目に国内企業の中でも入社最難関と言われる総合商社に7名内定というのは、並大抵の成果ではないでしょう。(総合商社というからには、三菱商事、三井物産、住友商事、双日、丸紅、豊田通商の6社のいずれかへ入社したと考えられます。)
これは、
- 新設だが、ユニークなカリキュラムを持つ大学をえらぶという、チャレンジ精神
- 講義、及び留学で身につけた語学、コミュニケーション能力
- 留学生枠として採用
僕は2~3年ほど前に、東京で学生向けのビジネスセミナーを行っていたときに、国際教養大の学生さんとお会いしました。ネットを通じて何回か事前にやりとりはしていたのですが、直接顔を合わせたのは初めてでした。東京までわざわざ学びに来る積極性や、ディスカッションを通じて貪欲にものごとを吸収しようとする姿勢にはおおいに驚かされたことを思い出しました。(まさか100人程度の新設校とは思いもしませんでした。)
もちろん、就職率の考え方にはいろいろあります。大学側が就職ではなく進学を希望しています。と言えばそれまでですし、仕事を選ばなければ、就職率を高めることはできるでしょう。ただ、国際教養大の場合は、企業に受け入れられるだけの理由がある、実を伴った数字だと考えられます。(逆に実を伴っていない大学と言うのは、教育に力をいれず、就職支援という出口支援にだけ力を入れる傾向があります。決して悪くはないのですが、本質的な力を高めることに成功していない場合、企業からの評価を落とす可能性もあります。)
さて、最後に国際教養大の入り口戦略に関して述べたいと思います。これまで見てきたように、
- ユニークなカリキュラム
- 就職実績
- 公立大にも関わらず、他の国公立大学と併願可(全国初)
- 特定科目のみが僅差で合格ラインに乗らなかった学生に関しては、暫定入学を認める
結果的に、入学の難しさも東京の有名私立と変わらない水準まで高まるとともに、定員も徐々に増やしているようで、今のところ、国際教養大の戦略は極めて有効に機能しているように思えます。
国際教養大の強さを支えているのは、学長のリーダーシップが遺憾なく発揮される、独裁制と学長以外の職員を可能な限りフラットにする公平性とのことです。
強者に挑み、乗り越えていく新規参入者としては、スピーディーな意思決定がなにより重要ですが、それを実現するために、大学の組織自体を工夫しているのは素晴らしいと思いました。
創設当初は優秀だったけれど、徐々に学生や教育の質が落ちてくる大学も多いと聞きます。しかし、スピーディーな意思決定を実現する組織と、強みにフォーカスしたカリキュラムはこれからの時代のモデル大学となるに十分な取り組みです。これから試練を乗り越え、時代に必要とされる教育を次々と提供していく大学になるのを楽しみに見守りたいと思います。
#2010年1月6日追記
Twitterにて、教育重視かつ任期制で優秀な非常勤講師が来るというのは信じがたいという指摘を頂きました。確かにそのとおりだと思います。短期間であれば、優秀な大学を出て、高い能力をもった方が、英会話学校などに数年間の期間限定で努められるケースを知っておりますが、そういった方々を安定的に教員として確保することを考えると、やはり任期制では不可能だと思われます。
学長のインタビュー記事に、テニュア制の導入を考えているという一文がありましたが、創立して6年がたち、任期制の限界を迎えつつある時期なのかもしれません。
Comment
自分のところもでしたし、他大に聞いても答えは同じでしたが、
教育:研究を1:9ぐらいに考えている教員が多く、また評価基準もそうなりがちです。
能力としては低くとも、全力、あるいは8割程度を教育に注いでくれる若手教員は、
研究にばかり重きを置いている(もっと酷い場合はポスト争いばかりしている)大物教授よりも、
(学生目線では)ずっと有意義、であると確信しております。
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