学生の理系離れは随分前から言われていたように思うけれど、生活習慣や初等教育の変化(ゆとり教育の導入)の視点から論じられることが多く、僕自身はずっと物足りなさを感じていた。クリステンセン氏の著書「教育×破壊的イノベーション」では、先進国で理系離れが何故生じるか。ということを、簡潔に説明しているので紹介したい。

人事や採用に関わっていらっしゃる方は是非ご一読ください。

日本企業が1970年代と80年代にアメリカの競合企業を追い抜いていた理由として決まって挙げられたのが、日本の人口はアメリカの四割でしかないのに、数学・科学・工学を学ぶ生徒がアメリカの四倍もいるという説だった。

しかし日本が繁栄を遂げると興味深いことが起こった。理工系志望の学生や、理工系の学位を取得する学生の割合が、この20年にわたって低下しているのだ。何故、こんなことが起こっているのだろうか?

~中略~

途上国が製造業を基盤とする経済を発展させるとき、生徒は科学・数学・工学を学ぶことで、貧困からの脱出を保障する大きな見返りを得ることができる。だが同じ国が安定と繁栄を実現すれば、生徒は自分が楽しいと感じ、自発的動機づけの持てる科目を、より自由に学べるようになる。

そんなことから、奇妙な話だが、自発的動機づけをもてるような方法で教えられていない科目にとって、繁栄は敵になることがある。これが技術的優位がまず日本に移り、続いて中国とインドに移っている主な理由なのだ。

すなわち、途上国では理工系科目を学ぶことは、将来リターンを得る分かりやすい方法であるため、熱心に学ばれる。途上国と比較して、先進国ではそれ以外にもリターンを得る方法がいくつもあるため、理工系の科目を無理して学ぼうとせず、離れていく。クリステンセン氏は述べている。

非常に説得力のある意見だ。
この記事を読むと「ものづくり」などという精神的な言葉をいくら唱えても、理系人材が増えることには繋がらないことが理解できる。

一方で、不況が長引くようであれば、理系就職を志望する学生が増えてくるかもしれない。
アメリカのように優秀な理系人材を受け入れるために海外の人材を積極的に受け入れるという選択肢もあるだろう。

こちらのデータによると、超大手企業であれば、30代前半で2000万を超える年収を稼いでいるエンジニアも相当数存在するようだが、外資金融などと違い、日本でエンジニアの年収が話題にされることは少ない。収入の多寡を話題にすることがタブー視されているのかもしれない。ただ、もし本気で理系を志望する学生を増やしたいのであれば、収入面やステータスなどの「理系を志望することの具体的メリット」(クリステンセン氏がいうところの、外発的動機づけ)をもう少しアピールしても良いのではないかとも思う。


付記

理工系の学位を取得する学生の割合がこの20年にわたって低下している。というクリステンセン氏の主張を確認すべく、文部科学省の学校基本調査を確認してみた。見てみると、理工系の学位を取得する学生の人数に関しては、ほぼ横ばいだった。ただし、パーセンテージで見ると確かに下がり続けている。各大学が大学受験数の増加にあわせて次々と新設の学部をつくったので、そちらにいく学生が増えているようだ。


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著者:クレイトン・クリステンセン
販売元:翔泳社
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