アゴラ : 株価が予言する民主党政権の未来

を読んで、自分なりの考察などを書こうと急に思い立ちました。
以下は、藤沢氏の論文(コラム?)の抜粋です。

(前略)
驚くことに小泉政権はわずか数カ月の間に世界の先進国の株価を20%以上もアウトパフォームしたのである。その後も日本の株価はずっと高止まりしていた。まさに日本株のひとり勝ち状態だったのだ。一部の民主党幹部から市場原理主義だと非難された小泉政権だが、この間失業率は3%台で推移して、赤字国債と税収のプライマリー・バランスははじめて継続して改善しつづけたのである。小泉・竹中政権の成長戦略をみて、世界の投資家はこれならまた日本は復活する、日はまた昇ると確信したのだ。そして株価は素直に上昇した。
本来、勤勉でモラルの高い日本人はものすごいポテンシャルを秘めている。しかし、経済成長を阻む巧妙な仕組みが既得権益層によって国中に張り巡らされてしまっているのだ。経済成長はベンチャー企業などの新しいチャレンジャーにより実現される。しかし既得権に安住する者が政治と癒着して新規参入者を排除しようとするのだ。逆にいえばそういった構造を改革していけば、日本はまだまだ世界の中でやっていける。2005年の株価はそのことを雄弁に物語っているのだ。
皮肉なことに、弱肉強食の小泉・竹中政権が結果的には一番弱者にやさしかったのだ。

僕は小泉・竹中政権は素晴らしかったと思っているし、総論では藤沢氏に賛成なのだけれど、小泉・竹中路線が「結果的に一番弱者にやさしかった。」というところに関しては、まぁ、長期的に見ればそうだろうな。と思うのだけれど、やっぱり労働者の視点が抜けているために、大多数の日本人(すなわち、企業につとめる一般のサラリーマン)の理解はなかなか得られないのかな。と思います。

財務省が出している法人企業統計調査によると、

  • リーマンショックが起こる前の10年間で、法人企業の経常利益は28兆円から53兆円に増えた。(+25兆円)
  • 一方で、従業員に支払われる給与は147兆円から125兆円に減った。(-22兆円)

と、なっています。

法人企業統計調査はサンプル調査による試算だけれど、傾向を把握する分には問題ないのでこのまま使います。藤沢氏や多くのネットの論者のように、日常的に投資活動をしておられる方(海外のプロ投資家も含む)であれば、労働収入よりも資産収入が多い方もいらっしゃるだろうから、株価の上昇が直接的に収入の増加につながるのだと思いますが、藤沢氏がおっしゃっておられる「弱者」は、おそらく金融資産をもっておらず、それを運用するフィナンシャルリテラシーも持っていない人たちを指すのだろうと思います。まぁ、僕もその一人です。彼らは、自らの収入を労働による対価としての給与にもとめるしかないのです。

1990年初頭のバブル崩壊までは、地価の上昇、株価の上昇、賃金の上昇がすべて生じ、働いてるだけの人も、資産を持っている人も皆ハッピーな気分にな れたに違いないけれど、リーマンショック前の10年間は、多くの日本人にとって、株価は上昇したけれど、給与は伸びない。あるいは減り続ける10年だった といえます。

ですので、資産収入の多い、国内外の投資家にとってはハッピーな10年であり、労働収入に頼るしかない、国内の多くの弱者にとっては「経済は回復してるっていうけど、まるで実感が持てない」10年だったといえます。

ようはこれが、多くの日本人が「搾取されている」と感じたり、「行き過ぎた資本主義社会」とかお題目のように唱え、必要以上に資本主義に対して嫌悪感を抱いている原因なのかな、と。

「一番弱者に優しかった」というのは、小泉・竹中路線がずっと続くのであれば中長期的にそうなったのかもしれないですけど、小泉氏が総理を辞められた後、すぐに改革は頓挫したわけで、その頓挫を後押ししたのが、10年間に労働者が味わった言葉にできない怒りみたいなものじゃないかな。と。今の民主党のマニフェストとか、亀井氏あたりのわけわからん意見が通るっていうのも、小泉・竹中路線の反動の側面が大きいのじゃないかな。そんなわけで、小泉・竹中路線が今の民主党の方針を生んだともいえるわけで、手放しでは褒められないと思う。小泉氏も後継者の選択と育成は間違いなく失敗したわけですしね。

国民が愚かなんですよ。といってしまうとそれまでなんだけど、国民って個人としてはともかく集団として見ると、どうも論理的にものごとを考えられないから、それも織り込んで政治やるしかないと思うんですよね。

FeelWorksの前川氏が
城繁幸氏と湯浅誠氏の議論がかみ合わない理由。
の中で二人の論者の会話がかみ合わない理由を次のように書いている。

城氏は就職戦線を勝ち抜き大手企業に務めたり、官僚となった人々だけを見て語り、湯浅氏は、非正規労働者や、労働市場に残れず貧困の淵にいる人々だけを見て語っているからだと思います。
この視点というか、感性はとても大事だと思う。
もちろん、論者はどちらかに極端にスタンスを寄せて話すから面白いんだけど、にしても、最近はネット上の知的論者の意見と、労働者の感覚の間にある溝みたいなものが凄く広がっているような気がする。

株価やマクロの経済動向という視点から論じると、労働者の視点をないがしろにしてしまうし、労働者の視点だけから語ると、一国の経済という視点が見えなくなってしまうのかな。と。別のスタンスに立つ人の立場を理解したうえで語るともっとよりよい解が見えてきそうな気もするのですが。