kafuka
村上春樹の小説を紹介するとしたら、最初の一冊は何がいいだろう?
最初の一冊はすごく大事なんだ。
つまらない。と思われてしまったら、二冊目を手に取ってもらうのはずいぶん後になるだろうから。

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僕が春樹作品とはじめて出会ったのは、中学3年の頃だったろうか。
とにかく、現国の問題集の題材が「ノルウェイの森」の一部を読んだことだけは覚えている。

正直言って一部だったし、何が面白いのか、何が言いたいのか全く分からなかった。村上春樹を理解するには若すぎたし、当時の僕を取り巻く世界は今よりもずっとシンプルだった。

でも、その問題集の選者はずいぶん気の利いたことをしてくれたな。と思うし、何より「ノルウェイの森」という素敵な響きを持つ作品のタイトルは僕の心を何年も話さなかった。

春樹作品が好きって女の子は多い。
だから大学に入ってから、好きな女の子と小説の話でもしようかと思い立ち、あらためて「羊をめぐる冒険」「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」を読んだ。

残 念ながら、想像したような素敵なシチュエーションは訪れず、そんな不純な動機で読んでいるものだから、大学時代も春樹の作品の良さはわからなかった(恥ず かしながら)。女友達には春樹の作品を絶賛する人が当時から多かったから、大学時代の僕の周りに関して言えば、女性のほうが感性が豊かで、物語を十分に味 わい、楽しむことができるほど、十分に大人だったのかもしれない。

春樹の作品の良さが分かり始めてきたのは、30歳を過ぎてようやく、だ と思う。春樹は、30の時にデビューしている。だからなのかわからないけれど、デビュー当時の短編は30歳前後の主人公が出てくることがやはり多い。主人 公と同じぐらいの年齢になって、ようやく楽しみ方がわかるようになった。

さて、そんなわけで「今週の一冊」で紹介する最初の春樹の作品は、海辺のカフカ。

東京の父親のもとを離れ、一人で生きていくことを決意する少年。― 少年の名前は田村カフカ。
「世界で一番タフな15歳」になることを決意した少年は、あてもなく南に向けて旅に出た少年は、高松で不思議な図書館にめぐり合い、そこに住みはじめる。

新しく始まった少年の生活に、猫と話せる老人、猫の心臓を取り出して食べる怪人、彫刻家の父。さまざまな人々のさまざまな人生が静かに絡み始める。

春樹の作品の中でも、メタファーの使い方が実に巧みな作品だ。だから、読み手によって受け止め方は様々に異なる作品だと思う。「あれはいったい何だったのだ ろう?」と思い疑問が沸き起こり、読み進めなくなってしまう人もいるだろうし、直感的に作品の世界が理解できる人もいるだろう。

少年の成長の物語…。ととらえれば簡単なのかもしれませんが、他の作品同様、作者からの答えは提示されていません。読み終わった後、僕の中に残ったキー ワードは「いきるとはどういうことか。」「時間とは何なのか」ということだった。(もちろん、受け止め方は人によって違うだろうし、それが当然だと思うけ れど。)

出会いがあり、別れがあり、憎しみがあり、哀しみがあり、喜びがある。
過去があり、未来があるが、立ち止まって進めなくなる人もいる。
自分の世界と他人の世界が、錯綜しつつ時間が流れる。

よく考えたら、すべての人生がそうなんだよね。
そんなことを考えさせられた、この一冊。


海辺のカフカ (上) (新潮文庫)海辺のカフカ (上) (新潮文庫)
著者:村上 春樹
販売元:新潮社
発売日:2005-02-28
おすすめ度:4.0
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