「思ってたより、はるかに大きいんですけど。」
目の前に近づいてくる80本の丸太を見て僕は少し気が遠くなる。

「確かにでかいな…」
彰文が答えるようにつぶやき、乗ってきた中古のレガシィを降りる。僕たちは、思い出したように軍手を取り出し、慎重にはめる。2,3度手を閉じたり開いたりして、そのフィット感を確認し、丸太に近寄る。僕は積み上げられた丸太の一本に手を触れ、押す。丸太はぴくりとも動かない。

僕たちはこれからログハウスを建てるのだ。
言いだしっぺは僕だ。
なんであんなことを言ってしまったんだろう、と、今はかなり後悔しているけれど。

----

はじまりは2か月前、高校時代の仲間と地元で集まって飲んだときのことだ。
仲間の多くは地元で働いているけれど、僕のように東京で働いているひとも少なくはない。いったん集まればいろんな話をする。20代の頃は、誰と誰がつきあったとか、誰がどんな仕事をしているとか、そういう話で盛り上がることが多かったけれど、最近はすっかり新しい話題も少なくなった。

そのときも、いつものように誰かが結婚したという話を聞き、家を買ったという話を聞いていた。
土地は1坪150万で買ったという話を聞き、デフレなのに土地は高い。という話になったところで、彰文が笑いながら口を開く。
「それって高いってレベルじゃないね。1坪ってようは畳2枚でしょ。ありえないなー。単位間違えてるんじゃない?」
「単位違うって、坪じゃなくて反とか?1反150万だったらわかるな。」誰かが同意する。
それでも高いよ。ここらへんだったら、150万あれば3,4反買える、と彰文。

「1反って、どれぐらいの広さなの?」
よくわからない。といった顔で隣に座った紗枝が僕に尋ねる。
「1反は300坪。東京で買おうとしたら、4億5000万。彰文、ほんとにそんな値段で買えるって言ってた?」いくらなんでも安すぎるだろ、おい。
「前、仕事で畜産農家を訪れたときに、そこの親父さんが、もうちょい上のほうの余ってる土地だったら、1反40万ぐらいで売ってやる。って言ってた。」
彰文は大動物専門の獣医なので、畜産農家、林業を営んでいる人たちと話すことが多い。生活のなかに動物が当たり前のように息づいている世界に住む人々が彼の顧客なのだ。
「もうちょい上のほうって、どれぐらい登る感じだった?」
「標高はそんなでもないけど、とりあえず木ばっかだった。サルとかカモシカがでるって。電気もガスもない。水は小川から。って感じかな。」
「まー、そりゃそうだよね。1反40万だもんな。」僕は、本当の森に寝泊まりしたことがない。サルが飛び、カモシカが跳ねる森を想像する。なかなか楽しそうだ。

「でも、40万円で広い土地が買えるって素敵よね。なんだかわくわくするね。」
紗枝の視点はいつも人とはちょっと変わっている。でも確かにわくわくする。そのときは妙にそう思った。
森の中で、自由な僕はカモシカに乗り、サルと踊る。